『宮崎駿の<世界>』
切通理作 ちくま新書 940円
この本を買いたい!
■ハイジ、コナン、ナウシカ、ルパン、そして『もののけ姫』『千と千尋』膨大な作品を詳解。しかし、魅力解剖本にはあらず
いきなり私事で恐縮だが、巷の評判につられ『もののけ姫』を劇場で見たとき、そのラストで、おもわず、隣の席に座る小学生らしき少女に確認したくなった。
「大丈夫なの?わかるの?」
こんな予定調和のない物語が、大団円のカタストロフィーのために捧げられタイプのハリウッド映画に慣れた多くの若年者に受けいれられているというのが、少々信じられなかったのだ。
著者は、本書のなかで、『もののけ姫』を「心を白紙にする映画」、『千と千尋の神隠し』を「途方に暮れる映画」と評する。読んでいただければ一目瞭然であるが、この言葉は、けっして、宮崎アニメを否定しているものではない。1964年生まれの著者は、「道を歩いていて、宮崎アニメの一場面を突然思い出して興奮する」、いわば、宮崎ファンである。しかし、同時に、本書は、“宮崎信者”が、その作品の魅力に捧げたものではないのだ。
著者は、『アルプスの少女ハイジ』『ルパン三世カリオストロの城』『未来少年コナン』などの初期作品から、スタジオジブリとしての処女作『風の谷のナウシカ』、転機となった『紅の豚』、そして、『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』まで、膨大な作品をコラージュし、それぞれの作品の内容にもかなり詳細に触れている。
それだけでも興味尽きない内容ではあるが(私も『未来少年コナン』のストーリー紹介の部分では、足の指で建物のヘリをつかんでいたコナンの動きにハラハラしていたことを懐かしく思い出しました)、本書の底流にあるものは、けっして賛美ではない。
また、彼の作品のヒットの要因を探るといったマーケティング的な主旨で書かれたものでもない。
それでは、著者は、宮崎作品を通して、本書で何をしようとしたのか?