■混迷の時代のリーダー像とは?現代にも通じる鋭い洞察
天災、異民族の侵入・・・。マルクス帝の治世を危機また危機の連続であった。彼は、その中においても、常に克己心と責任感を保ち続け、危機に対して、常に公正に善良に行動し、選択を行う。例えば、ゲルマニア戦役に出陣する際、47歳までほとんど首都周辺を離れた経験もなく戦闘指揮の経験もない自らの「欠陥」を認め、それを補う人員配置を行っていることを、著者は指摘する。だが、それにも関わらず、彼はこれといった「実績」をあげることはできない。この悲劇性が後世の人気の要因の一つでもあるだが、けっして著者は、固定化されたイメージや情状に流されない。
けっして、衰亡の予兆を止めることも、いや、それを鋭敏に感じとることもおそらくなかったであろうマルクス・アイレリウス。著者は、その不明を彼の自身の資質のみに還元しないのだ。彼女の視点は、彼を「政治的リーダー」に選んだローマという国の変質そのもの向けられる。右肩上がりの時代が長く続けば、目に見えないほど少しずつであるが確実に失われていくものが確かにあるのだ。例えば、危機意識、長期的視点・・・。
なんだか、遠い時代の遠い国の話とは思えなくありませんか?
そう、著者はその鋭い洞察力で、ローマ帝国という鏡を通して、遠くイタリアの地から、現代の「日本」をも視つめているのである。
そういう意味では、この巻だけを読んでもなかなか読み応えがある(もちろん、拾い読みは、著者の本懐ではないと思うが)。ぜひ、年末年始休暇にご一読を。
★あえて、アラ、捜します!
アラなんて、そんな。でも、ひとつだけ。新潮社さん、文庫化のスピード、もう少し速くならないでしょうか?そうすれば、既刊を文庫で押さえて最新をハードカバーで、というのができるのに(9巻め、引越しなどで行方不明なんです)。
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