■事件に関わった6人の男たちの物語が連なっていく“連鎖短編”
6章から成る本作。それぞれの章には、梶の事件に関わった男たちの名が関されている。捜査官である志木、検事・佐瀬、弁護士、裁判官・・・そして、最終章は、刑務所の刑務官の名が冠されている。おわかりになった方も多いが、捜査から司法、服役まで、いわゆる「犯人」が辿る道筋を追っているのだ。犯人・梶が心の奥深くに閉じ込めた“謎”は、捜査官から検事へ裁判官へと引き継がれている。
そう、梶聡一郎は、心のうちを一切明かされない“半落ち”のまま、警察や司法といった大組織の対面のため、“完落ち”と見なされ、定められた道筋を滑っていくのだ。あたかもベルトコンベアに乗せられた荷物のように・・・。
そして、その間に事件に関わった6人の男たちは、それぞれが属す組織の中で、その独自の価値規範に試され、挫かれ、弛められ、苦悩しながら、梶の“謎”をその手から離す。
そこには、彼らそれぞれの物語がある。
そう、全編が梶聡一郎という一人の男の物語であるように、一章一章が、名を冠されたそれぞれの男たちの物語なのだ。
短編を得手とする著者らしく、その物語は、実に密度が高い。いわば、「連鎖短編」とでもいうべきか。長編でありながら、短編の魅力も堪能できる。“長いミステリーは苦手”という方も、ぜひお読みいただきたい。
★あえて、アラ、捜します!
アラではありませんが、気になるのが、登場する新聞記者の今後。他の登場人物よりかなり若いし、色々と、ね。違う作品でもぜひまたお会いしたいものです。
この本を買いたい!
●人気ミステリー作家としての地位を確立した著者。他のミステリ作家のこともチェックしたいなら「ミステリー・ホラーの作家ページ」へ。
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