冬に聞きたい落語! 日本の四季を楽しもう
冬におすすめの落語
「深々と雪の降る大晦日の晩」(福禄寿)とか「夏の暑い盛り、浅草観音様の四万六千日の縁日」(船徳)などと季節を明確にさせるフレーズがあることによりその情景がリアルに浮かび上がってきませんか?
また、噺家達は寄席や落語会で夏の噺(怪談物である牡丹灯篭や真景累ヶ淵)をこの季節(冬)にほとんど演じることはありません。つまり、季節外れの演目はあまり演じないということです。これは落語が日本の四季をとても大切にしている芸能だからです。
今回はその四季の中で、「冬」を代表する落語を紹介いたします。落語の噺の中でも情緒豊かな「日本の冬」を楽しんでみてください。
冬になるとか必ず聞かせられる「時そば」
冬の噺というより、落語の演目で最も有名な噺です。短く分かりやすく、所作(落語の動作)も楽しめ、サゲ(オチ)も秀逸ゆえ、一年中高座にかけられます。特に場面が「冬の深夜」なので、この季節になると寄席に行けば必ず聞くことができます。というより聞かされます。屋台の蕎麦屋で巧みな話術で支払いをチョロまかす(少なく)済ませた人をを見ていた男が自分も真似をしようとして失敗してしまうという噺。この演目の醍醐味はそばを食べる所作ではなく、お金をチョロまかすところなのですが……。なぜか? 教育者にとても人気があり、学校寄席でよく演じられます。
落語ファンにとっての紅白歌合戦!「芝浜」
冬の噺というより、年末の噺。年末になると多くの噺家が演じると同時に、落語ファンの多くが「この噺を聴かないと年が越せねぇぜ」と唸ります。近代落語の祖である三遊亭円朝が作った三大噺の傑作であり人情噺の最高峰。古典落語を代表する大ネタになったのは三代目・桂三木助の功績が大きいといわれてます。落語界では「芝浜」=「三代目・桂三木助」が今でも定説。
ストーリー展開、登場人物のキャラ立ち、そしてサゲの見事さは他の人情噺の追随を許しません。いつ何時聴いてもホロッと涙し、笑顔になるいい噺です。
【関連リンク】
・年末は「芝浜」を聴く
下ネタ万歳!「夢金」
「個人的に冬といえば私はこの噺を思い浮かべます。しかし、最近はあまり演じる噺家が少ないようです。その理由は2つあると考えます。サゲが夢オチ:
「それまでの出来事は、すべて夢だった」、という結末を明かして終わるので一度オチを聞いてしまうと、その噺の面白みが半減してしまうから何回も続けて高座で演じることができない。
サゲが下ネタ:
重厚で深みのあるストーリーで展開してきたのに、最後のサゲがとてもくだらない下ネタだから。
噺の内容は金に目がない船頭が雪の降る夜に渡し賃を弾むからと言われてしぶしぶ、武士と綺麗な娘を船にのせ目的地に向かう。向かう途中に二人の様子を怪しむ船頭が娘は武士に誘拐されている身だと気づき、武士を川の中州に置き去りにし、娘を無事助ける。
助けた娘の家は大金持ち、助けてくれたお礼にと船頭は大金をもらおうとすると瞬間に目が覚める。この出来事はすべて夢で、お礼の大金の変わりに自分の金玉を握っていたことに気づく(このサゲが演目名の由来です)。
「うどん」は本家の上方に限ります
「うどん屋」も冬になるよく高座にかけられる噺です。冬の情景が浮かび上がり、噺の中でで美味しそうにうどんをすする所作は、観て(聞いて)いるだけでお腹が減ってきます。とよく紹介される演目ですが、私は子供の頃からこの噺がとても苦手でした。全体的に薄暗いところで、ズルズルとうどんをすする描写だけが強い印象として残っていました。しかし、上方の桂吉朝の「かぜうどん」(こちらが本家)を聴いてその印象が一変。
冬の夜の凛とした寒空に聴くと、とても味わいのある噺だと感じるようになりました。ぜひ、江戸(東京)版の「うどん屋」だけでなく、上方版の「かぜうどん」もお聞きください。
落語の各演目は季節が明確なものが多いので、冬だけでなく、春・夏・秋と各季節ごとに即した演目を探してみてはいかがでしょうか? このように落語が季節感を大事にするのは四季の移り変わりが明確な日本で育った芸能だからかもしれませんね。そう考えると、落語は日本ならではの代表的な伝統文化だということを感じます。
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