成熟への挑戦に成功したチ・ジニ
ガイド:主演のチ・ジニは、監督の作品の主人公の中で一番イケメンかと思いますが(笑)、キャスティングの理由を教えてください。
イム・サンス監督:
私がチ・ジニを選んだという面もありますが、チ・ジニが私を選んだという面もあります。チ・ジニが私を選んだのは、「女性たちに人気があるイケメン俳優」という枠を超えて、真摯な俳優になりたいという思いがあったのだと思います。
ガイド:
イケメン俳優のキャスティングに戸惑ったことはありませんでしたか。
イム・サンス監督:
全然。カッコよくていいな~と思いました(笑)。実はチ・ジニについて私はよく知らなかったのです。作品をほとんど見たこともなかったため、撮影に入る前に何度もあっていろいろなことを話、演劇を見に行ったり、酒を一緒に飲んだりとお互いと知る機会を持ちました。チ・ジニは役者としてのバックグランドが少し変わっているのです。カメラマンなど色々な職業を経験し、俳優になろうと思ったのは30歳を過ぎてからのことでした。役者としてキャリアをスタートさせたのが遅かったため、少し謙遜し、自信がなない、自分には足りないところがあると、素直に自分を見ることができるというところが良かったです。「ここまでしかできないんだったら、これでいいじゃないか」と率直に仕事することができた。とてもうれしかったですね。すごく演技がうまいというわけでもないが、下手ではない。チ・ジニとしては挑戦に成功したといえる作品ではないでしょうか。
ガイド:
チ・ジニは30代中盤で、映画の時代背景についてはリアルタイムの経験が監督に比べると少ないかと思いますが。
イム・サンス:
そうですね。政治的な背景については世代の差があり、詳しくはありませんでした。しかし、この映画は韓国の80年代に関する話ではありますが、人間の歴史を見れば、「権力があり、それに抵抗する力の弱い若者の葛藤」というのは普遍的に存在するものだともいえます。そういう視点から彼は理解を深めていきました。チ・ジニには、私が経験した時代について話をたくさんしましたね。韓国でもこの映画が公開された当時、若者たちから「主人公の気持ちが理解できない」という意見も出ました。それを聞いて、「韓国社会は変わったな」、と実感しましたね。主人公は17年間監獄にいたと言う設定ですが、実際にもそういう人はたくさん存在します。「獄中19年―韓国政治犯のたたかい」(徐勝著・岩波文庫)という本があります。『懐かしの庭』の原作者もこの本を参考にしたといいます。
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