高級イヤフォンが当たり前になった時代に向けて



 
Shure「SE535」実売価格6万円前後
色は写真のクリアの他、メタリックブロンズがある

このガイドサイトが始って間もない2004年5月に、Shureのモニターイヤフォン「E5c」を紹介しました。その頃は、iPodに数万円する高級イヤフォンを組み合わせることが、まだ一般的ではなく、そんな馬鹿な事を勧めていたのは、ガイド納富の他、いくつかの個人サイトくらいのものでした。しかし、今では、それなりに満足出来る音を求めるユーザーが増えた事もあって、高級イヤフォンも日常使いの道具として当たり前に紹介されるようになりました。また、メーカーの技術向上やiPod側のロスレス圧縮への対応もあって、近年、さらに高音質化しながら、価格はさほど上昇せず、物としての価値も上昇しています。


 
パッケージがシンプルに、商品が分かりやすいものに変更された

Shureの新作「SE535」は、そんな、高級イヤフォンが一般的になったことを体現したような製品になっています。何と言っても、従来のShureのプロ向けのラインだったSCLシリーズと、コンシューマ向けのラインだったSEシリーズを統合、一本化した製品なのです。つまり、現時点のプロ向け、コンシューマ向け双方のフラッグシップ的な製品が「SE535」というわけです。そして、そこにはプロ、アマの境界はありません。つまり、それだけイヤフォンの市場が成熟したという事なのでしょう。

プロ向けの耐久性を追及したケーブル周り


 
パッケージには分解図なども描かれている。スピーカーユニット部分やケーブル部分の特徴が分かりやすい

今回の新作は、ガイド納富愛用の「SE530」とプロ用の「SCL-5」の後継にあたるモデルです。ただ、従来のモデルと決定的に違う点は、ドライバとケーブルを着脱出来る事です。この機能で、どうしても避けられない「断線」問題にある程度の決着を付けています。断線したらケーブルだけ交換すれば良いわけです。このケーブル着脱方式は、現在、いくつかの高級イヤフォンメーカーでも採用している方式で、イヤフォンの形状と使用形態上、どうしても避けられない断線問題についての、最も合理的な解決方法の一つでしょう。安価なイヤフォンならともかく、高級イヤフォンの場合、断線はよくある事と言って済ませられる問題ではありませんから。


 
このようにケーブルが外れる仕様。そして、このコネクタ部分は360度回転するので、装着時に便利で接点への負担も軽い
 

さらに、今回の新作では、ドライバとケーブル部分が着脱出来るだけでなく、クルクルと回転します。これが結構すごい事で、装着時にケーブルが捩れたり捻れたりしないのです。これは、ケーブルにかかる負担が少なくなるので断線しにくくなる上に、装着時の引っ張られる感じも少なくて済む画期的な一石二鳥策。発表会でShureの方も言ってましたが、ガイド納富も、このドライバとケーブルの接続部分が回転するイヤフォンを他に見た事がありません。断線は、このドライバとケーブルの接続部分か、ケーブルとステレオミニプラグの接続部分で起こる事が多いのですが、その片方、正確に言えば三分の二が断線しにくくなっているわけです。


 
ケーブルは耐久性のある素材を使い、断線対策を強化
 

今回、ケーブルもプロ向きの製品に使われていた、太い繊維を使ったワイヤー風のものが採用され、しかも、途中で繋ぐのではなく、一体型のケーブルになっています。これは、ステージなどで動く際に抜けたりしないようにというプロ向きの仕様。従来のケーブルの長さを変えられるスタイルは便利でしたが、今回は耐久性を重視した構造になっているわけです。ケーブルのパーツ一つ一つが、従来の「SE530」と比べて、耐久性のある素材と構造に変更されています。耳にかかる部分にワイヤーを入れ、さらに、外側をコーティングする事で、耳への着脱がスムーズになり、フィット感も増すように作られているのも、従来はプロ向きの製品にのみ使われていた仕様。このワイヤーによる耳へのフィット感は、ケーブルとドライバの接続部分の回転機構で、さらに良いものになっているのは、使ってみて初めて分かる部分でした。

コンシューマ向けの繊細な音作りにプロモニター向きのの太さをプラス
 


 
付属品は専用ポーチとプラグアダプター、レベルコントローラー、航空機内用アダプターに、各種イヤーパッド

音に関しては、ガイド納富は「SE530」が大好きなので、それを基準にした評価になりますが、基本的には「SE530」の音を継承していて、そこについては一安心でした。ただ、高音のヌケと切れ味は「SE530」の方が良いように思いました。聞き比べに使ったのは、ロスレスで圧縮したLed Zeppelinのアルバム「聖なる館」所収の「The Song Remains the Same」と相対性理論のアルバム「ハイファイ新書」所収の「テレ東」。スッキリした原音に忠実な音はそのままに、中域が厚く、低域の伸びが増した音になっていると感じました。言わば、ライブでのモニター時に、声やソロが聴きやすいセッティングといった感じです。


 
イヤーチップは、フォーム・イヤパッド、ソフト・フレックス・イヤパッドが各S、M、Lの3種類。さらに黄色の円柱形のフォーム・イヤパッドとトリプルフランジ・イヤパッドが付属する

比較的、細部や高域のヌケにこだわった、繊細な音作りの「SE530」に比べると、ややワイルドで太い音になっているようです。ある意味Shureの欠点でもあった、スッキリし過ぎる感じに、生々しさをプラスした感じで、ガイド納富の好みとしては「SE530」が好きなのですが、もしかすると、多くのユーザーには、新しい「SE535」の迫力の方が受け入れられやすいかも知れません。実際に聴いていると、声やボーカルに関しては、確かに「SE535」の方がしっかりと聴こえるように思いました。落語やラジオの録音なども、声が生々しく、しっかりと聴こえるので、言葉が聞き取りやすいようです。音の粒立ち、分離は、明らかに良くなっていると感じます。これは、ライブでのモニターとして使われる事が多い製品だからこそのセッティングなのかも知れません。


 
装着例。耳を回る部分は、ワイヤーフォームフィット機能で、耳の形状に合わせてある程度固定出来る。クリアタイプは目立たず、女性が付けてもファッションの邪魔にならない

ただでさえ分離が良くて、それぞれの楽器の音がハッキリ聞き分けられるのが特徴の一つだったSE530を、さらにパワーアップしているわけで、好みは置いておいて、そのイヤフォンという条件の中でのモニター機器としての音へのエンジニアのこだわりは凄いものだと思うのです。新品でも音が固い印象はなく、エイジングの必要を感じないのも、クロスオーバーサーキット(3つのスピーカーユニットへの音の振り分けを行う回路)を一から作り直したというだけの事はあります。ノズルの方向にも手を加えたという事で、音の迫力が増して聴こえるのは、そのせいなのかも知れません。

ガイド納富の「こだわりチェック」


 

イヤフォンは、かなり好みと予算で評価が変わる製品なので、中々、皆さん全てにお勧めですとは言いにくいものです。そして、将来的にも、これさえ買っておけば間違いない、なんて製品は絶対に出てこないジャンルです。もし、本当にそういう製品が登場したら、それは製品が凄いのではなく、私達の耳が相当劣化した時でしょう。実際、ガイド納富は、未だに、SE530SE535のどちらが好きか決められずにいます。ハードロックはSE530で、ジャズはSE535かなあとか、聞き比べながらフラフラしています。ただ、ハードウェアの面では、耳への付けやすさ、ケーブルへの安心感、ケースの小型化による耳への負担の軽さ、などなど、明らかにSE535が上です。


 
こちらは「SE425」の装着例。色はメタリックシルバー。

今回、「SE535」の他にも、「SE420」と「SCL-4」の後継となる「SE425」と、「SCL-2」の後継になる「SE-115CL」、さらにSE-115にiPhoneやiPad、iPodで使えるリモコンとマイクが付いたケーブルが付属するモデルも発表されました。つまり、完全にプロ向きのラインとコンシューマ向けのラインを統一していくのですね。その、「SE425」に関しては、明らかに「SE420」より良くなったと言えると思います。悪くないけど、何か聴き飽きる音だった「SE420」の音に生き生きとした感じがプラスされて、コストパフォーマンスが高い製品に仕上がっていると思いました。低価格の「SE-115CL」に、遮音性が高く、耳への負担も少ない、フォームイヤパッドが付いて、まるで別物のように音が良くなったのも面白いと感じました。また、リモコン付きのケーブルが「SE535」用にも発売されるというのも嬉しいニュースです。などなど、同じShureの製品の中でも、価格も音も様々で、選べるのはユーザーとしては幸せなのだと思うのです。

という事で、ガイド納富は、聞き比べの日日が続くのですが、SE535が、かなり完成度の高いイヤフォンである事は間違いありません。何より断線をあまり気にせずに使えるというのは、毎日使うものであるだけに、嬉しい事です。今回の進化の大部分が、そんな体に近い機器だという事を意識したものである、という感じがするのもいいですね。

<関連リンク>
Shure「E535(クリア)」の購入はこちらから
Shure「SE535(メタリックブロンズ)」の購入はこちらから

Shure「SE530」のガイド記事はこちら
Shure「E5c」のガイド記事はこちら

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