鉛筆を使うということ
五十音「ミミック」7,300円(税込) |
かつて、子供の頃は「書く」といえば鉛筆でした。高学年になってシャープペンシルになって、そのまま高校生くらいまで、消しゴムで消せる、鉛筆の芯で文字を書いていました。それが、いつの間にかボールペンへと移行して、あまり鉛筆を使わなくなりました。それは何故だろうと考えていて、思い当たったのが、鉛筆は単体では持ち歩きにくい、ということです。
鉛筆を使わなくなった時期は、筆箱を持ち歩かなくなった時期と重なるような気がするのです。また、文字を手で書くことが日常ではなくなるのも、その頃で、精々手帳などにメモを取るだけなら、ボールペンが扱いやすいのも確かです。そんな状況の中で、鉛筆を使ってみようという試みの一つが、ファーバーカステルのパーフェクトペンシルだったのだと思います。
ただ、パーフェクトペンシルも鉛筆を剥き出しにして使うことには変わりなく、大人の手には、さっとメモを取ったりするには、やや軸が細いのです。そのため、鉛筆を使う必要のある人も、芯ホルダーに移行することが多いようです。そうして、何となく鉛筆から離れてしまいます。鉛筆を使いたい気持ちは残したままで。
鉛筆を、万年筆に「擬態」させる道具
キャップを外すと中には鉛筆が仕込まれている |
銀座の小さな鉛筆とボールペンの店「五十音」が作った「ミミック」は、その名の通り、鉛筆を万年筆に擬態させるための道具。一見、ちょっと古風な万年筆に見えますが、中には鉛筆が仕込まれています。というか、鉛筆用の補助軸をアセチロイド(セルアセテート)で包んだもの。正に「ミミック(擬態)」ですね。
ミミックは、鉛筆全体を包むような構造の鉛筆用補助軸だ |
軸に使われているアセチロイドは、セルロイドと同じく、植物繊維から作られる素材で、大阪は生野の職人、藤本寛さんが一本一本手作りで作っているのだそうです(藤本さんは、ロングプロダクツのブランドで、湯川博士などが愛用していたペンなどを製作した方です)。セルロイド同様、持った時に何となく柔らかい感触で、使う内に手に馴染んでいきます。アルミ製のグリップ部分に刻まれている滑り止めの溝が、浅くて丁寧で、指先に引っかかることなく滑り止めの機能だけを果たすように作られているのも、芸が細かいところです。
キャップが付いていて、軸が持ち易い太さであること
こんな風に、クリップを外して使うことも可能 |
この「ミミック」なら、鉛筆をまるでボールペンや万年筆のように持ち歩くことが出来ます。しかも、軸が太いので、持ち易く書き易いのです。何より、持っていて、使っていて、とても心地よく、充実感があるのです。また、この太さと長さだと、ペンケースなどにも収まりが良く、鉛筆を仕事の現場で普通に使うことが出来るようになりました。
アイボリーと黒が縦にマーブル模様を描く軸は、持ち易いだけでなく、とてもキレイで、しかも当たり前に筆記具らしくて、そして、本当に高級万年筆のように触り心地が良いのです。その触り心地を存分に楽しむため、ガイド納富はクリップを外して使っています。このクリップがないシンプルな姿が、また、とても筆記具らしくて好きなのです。
特注のミニサイズ「トンボMONO」が付いてくる
特注のミニサイズ「Tombow MONO」が付いている |
この「ミミック」、当然ですが短くなった鉛筆を入れて使うものです(鉛筆の長さが100mm以下になれば使えます)。でも、それではすぐに使い始めることが出来ないということで、トンボの名作鉛筆、MONOのミニサイズ版が付属しています。ですから、購入と同時に使い始めることが出来るわけです。硬さはBです。
この鉛筆も、実は五十音がトンボ鉛筆と共同で作ったオリジナル製品。なので、軸にも「TOMBOW×五十音」の文字が刻まれています。このMONOの書き味も、ミミックの書き易さに繋がっているような気がします。ガイド納富は、小学校時代、ずっとMONOを愛用していたことを思い出します(MONO100という当時の高級鉛筆を時々お小遣いをはたいて買っていた事も思い出しました)。
ガイド納富の「こだわりチェック」
鉛筆は、最も安定した信頼性の高い筆記具だと思うのです。ボールペンや万年筆、シャープペンシルでさえ、それが実際に書けるのかどうか、手に取るだけでは分かりません。紙に書いてみて初めて、「あ、そういえばインクが切れてたんだっけ」とか、「芯が入ってなかった」といった事に気がつきます。その点、鉛筆は見れば書けるかどうか分かります。
書いたものをスムーズに消せるのも鉛筆ならではですし、意外に紙を選ばないのも鉛筆の特徴です。ガイド納富は、在宅時、アイディアを練る時、作曲する時、咄嗟の時のメモ、スケッチなどには鉛筆を使います。それがミミックを入手して以来、外出先でも使えるようになって、手帳がアイディアメモからアイディアをまとめるツールに変貌しました。
パーフェクトペンシルも、鉛筆を持ち歩くツールとしては、とても良い製品なのですが、「書く」ことを考えると、ミミックの鉛筆全体を包み込むスタイルの使いやすさ、書き心地の良さには敵いません。持っている喜びや充実感についても、パーフェクトペンシルに匹敵するのではないかと思っています。ただ、職人さんによる手作りなので、生産が追いつかず、入手するためには、注文して暫く待たなければなりません。とはいえ、このミミックという製品を欲しいと思う人は、その待つ時間でさえも楽しみに出来る人のような気がするので問題はないでしょう。
<関連リンク>
・ミミックを制作した五十音のサイトはこちら
(サイトでは購入出来ません。お店に行ってみてください)
・ミミックは信頼文具輔でも購入出来ます
(信頼文具輔でのミミックの販売は予定数を終了しました)
・トンボ鉛筆の公式サイト