時計の時間と太陽の時間には違いがある
天体に深く関心を寄せ、それを文字盤の限られたスペースに表現するマーティン・ブラウンらしい新作をあげるとなると、まず「ゼフィロス」というモデルが筆頭だろう。この腕時計の特徴は「均時差」を表示する点。マーティン・ブラウン「ゼフィロス」。自動巻き、均時差、四季、日付表示付き。レッドゴールド・ケース(直径42mm)。277万2000円 |
といってもまず、「均時差」とは何かを説明しなくてはならない。機械式時計は、基本的に歯車の回転によって時間を均等に表示する仕組みになっている。1日を24等分し、文字盤では一般的に12時間で1周する時刻表示のシステムを用いている。
しかし、これは、あくまでも人為的に作り出された時間であり、「平均太陽時」と呼ばれる。この場合、1年を通じて「1日=24時間」はつねに一定。これに対して太陽の観測に基づく1日の長さは季節によって変化する。たとえば、日時計が指す時間だ。これは、太陽の周りを公転する地球の公転軌道が円ではなく、実際は微妙に歪んだ楕円になっているからだ。両者の差を「均時差」と呼ぶ。実際に両者が一致する日は年に4回だけ。差はけっこう大きなものがあり、最大で16分33秒にも達する。この現象は、紀元前の古代バビロニアの頃から知られており、機械式時計が目覚ましく発達した18世紀から19世紀には、懐中時計にも均時差表示機能が採り入れられた。
マーティン・ブラウンはドイツ出身の時計師。アンティークの修復を通じ天体複雑時計に関心を抱く。日の出・日の入り表示付きの腕時計「イオス」で脚光を浴びる。昨年より、フランク・ミュラーのウォッチランドグループに加わり、以前にも増して野心的な時計づくりを試みる |
この「ゼフィロス」を見ていておもしろいのは、そもそも時計の時間とは何なのかをあらためて考えさせる点だ。機械式時計が示す時刻は、いかに高精度であろうと、それは平均太陽時を厳密に再現しているわけで、太陽の時間から遅れているか、あるいは進んでいるという事実までも変えることはできない。均時差時計は、不規則な太陽の時間をも歯車やカムを利用してシミュレートし、この時計の時間をある意味で補正するもう一つの時間システムだ。その高度な技術は、時計好きにとっても、天文に関心のある者にとってもまた興味が尽きないだろう。
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