伝説と現代性の融合
では、1点ずつ見てみよう。1930年代にオリジナルが遡る「ポルトギーゼ」は、ポルトガルの時計商の要請で誕生した腕時計で、懐中時計ムーブメントを収めた大型ケースに特徴がある。このモデルは、直径44mmケースを採用し、「ジョーンズ・キャリバー」と呼ばれる2針スモールセコンド付きの手巻き大型ムーブメントが収められている。1936年発表モデルに基づく「パイロットウォッチ」もケースは44mm(こちらは当時より大幅にサイズアップ)、同じく「ジョーンズ・キャリバー」タイプの手巻きムーブメントを使用。二つとも、文字盤デザインはかなりオリジナルに忠実だ。「パイロットウォッチ」ステンレススティール、径44mm、手巻き、129万6750円 | 「ポルトギーゼ・ハンドワインド」ステンレススティール、径44mm、手巻き、140万7000円 |
戦後のエポックメーキングなモデルといえば、1955年発表の「インヂュニア」。“エンジニア向け時計”として発表され、耐磁性や高効率の自動巻き機構に特色があった。再現版では、インナーケースがなく、耐磁設計になっていないが、ペラトン自動巻き機構を現代に受け継ぐIWCオリジナル設計の80111キャリバーの偉容がケース裏から姿を現す。ジャック・クストーなどの海洋探検で活躍した1967年発表の「アクアタイマー」、1969年に発表された初のクォーツウォッチ「ダ・ヴィンチ」についても、デザインの再現度は高いが、どちらも自動巻きムーブメントの80111キャリバーを採用。つまり、センターセコンド付きの3針+カレンダー表示ムーブメントの点だけに着目すれば、3者とも同じである。
「アクアタイマー・オートマティック」ステンレススティール、径44mm、自動巻き、87万6750円 | 「インヂュニア・オートマティック」ステンレススティール、径42.5mm、自動巻き、87万6750円 |
「ダ・ヴィンチ」といえば、永久カレンダーを搭載する高度な機械式複雑時計を思い浮かべる人も多いだろう。だが、クォーツ時計という当時最先端にして最高峰の技術を天才に見立てて、IWCはこの時計を「ダ・ヴィンチ」と命名したのだった。カクカクとした先鋭的なデザインにも来るべき未来の時計の姿が象徴されていた。1980年代後半になってもう一つの「ダ・ヴィンチ」が機械式時計の復活をリードすることになろうとは、その頃だれも予想していなかったに違いない。
「ポートフィノ・ハンドワインド」ステンレススティール、径46mm、手巻き、151万2000円 | 「ダ・ヴィンチ・オートマティック」ステンレススティール、幅42mm、自動巻き、87万6750円 |
最後に取り上げる「ポートフィノ」も運命のいたずら経験した珍しい時計といえよう。クォーツ時計全盛の1984年に発表され、短期間だけ生産された珍しい大型腕時計だ。これまた超薄型懐中時計ムーブメントを使用し、「腕に着けるポケットウォッチ」そのものだった。今回の復刻では、ムーンフェイズとスモールセコンドの位置がオリジナルより90度回転させたデザインに変わり、ケースサイズも46mmに改められた。
6モデルとも、ステンレススティール・バージョンとプラチナ・バージョンを揃える。プラチナはかなり高価なのでコレクター向きだ。
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