個人ブランドならではの「こだわり」
時計ブランドといっても、実際はいくつかのタイプに分かれる。100年、200年以上という歴史の長い大手の著名時計ブランドの場合もあれば、時計師や時計に関わるスペシャリストがここ10年や20年の間に創設した新進ブランドもある。作り手の顔がよく見えるという意味では、後者が断然おもしろい。知る人ぞ知るブランドであれば、なおさらだ。ヨルク・シャウアーは、1968年生まれ。彫金や時計組み立ての専門技術を習得し、1990年、20代で時計ブランド「シャウアー」を創設。彼自身が手作業で仕上げる独特の時計が世界で人気。ドイツ宝飾産業の中心地フォルツハイムに工房を構える |
独立時計師に見られるように、個人ブランドに名を連ねる人々は、まさに多士済々。それぞれが得意技をもっており、個人という利点を生かして、かなり自由で大胆な時計づくりを展開している。それは、良い意味で「こだわり」に他ならないし、シャウアーを愛好するファンも、そうした「こだわり」に共感を覚えるからだ。
さて、今回紹介するヨルク・シャウアーは、ドイツの職人。彫金のスペシャリストとして研鑽を積み、自らのブランド「シャウアー」を1990年に創設して以来、独特の世界を築いてきた。特徴は、彼自身が丹念に手作業で仕上げ、金属の質感を徹底的に引き出したケースと、機械式ムーブメントとの融合にある。シンプルなデザインは、一見しただけでは素っ気なく思われるが、しかしそれが手作りであることを知れば、逆に人間的な温もりが伝わってくる。
「Onehand Gold」。手巻き(ドイツ製デッドストック・ムーブメント)。ステンレススティール・ケース、18Kゴールド針。世界限定100本(文字盤4色各25本限定、写真のブラックのみ完売)。38万8500円 |
たとえば、文字盤にゴールドの針を1本配しただけの「Onehand Gold」は、彼の作風を語る典型的な時計。針は一つずつ18Kゴールドの板から型抜きし、研磨と仕上げを施している。ほとんどの時計メーカーは、専門サプライヤーに外注した針を工房でセットするのがふつう。1本という慎ましい針にも、職人魂を行き渡らせるシャウアーは、あらためて時計の「顔」の大切さを発見させる。加えて、24時間式の時刻表示を行う手巻きムーブメントは、入手困難なドイツ製のデッドストックものを用い、機械式時計ファンにとっては、メカの点でも非常に気になる存在だ。
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