クルマにはいろんな価値があっていい

M・ベンツSクラスハイブリッド
輸入車初のハイブリッドモデルとなるSクラスハイブリッド。エコカー減税(環境対応車普及促進減税)により取得税(60.21万円)と重量税(9.45万円)が免税、自動車税は50%減税(2.9万円)される。価格は1405万円、サイズは全長5230×全幅1485×全高1485mm

以前、海外で乗ったS400ハイブリッドをリポートしている。クルマの内容はほとんど変わらないので、そちらを参照いただきたい。アトキンソンサイクル(みかけの膨張比を上げて熱効率を高めたもの、プリウスもそう)のV6エンジンと7Gトロニックの間にモーターを組み込み、リチウムイオンバッテリーを積んだ話題のモデルだ。今回は、待望の日本仕様に日本で乗った“最新”の印象について語ってみたい。

日本仕様はSハイブリッドロング、である。400、という数字はどこにも見られないが、トランクリッドにはちゃんとS400とある。外すユーザーも多いのではないか。Sクラスラインナップの中では、最もリーズナブルなロングボディ車となった。

本国でも、仕様そのものは高級なSの中でも550に匹敵する“豪華版”だったから、S550ロングよりも100万円弱安いという価格設定には納得性がある。しかもこのクルマ、いわゆるエコ減税&補助金対象モデルだから、13年以上乗った下取り車があれば(スクラップインセンティブ)、最大97万5600円、さらに安く買える。550ロングに比べて装備がほぼ同じで、ハイブリッドでイメージはよく、しかも200万円近く安いということになれば、法人需要が復活!となっても不思議ではない。S550ロング需要と競合しただけ、という話もあるが、売れないよりも売れた方がMBJにとってはいいだろう。

M・ベンツSクラスハイブリッド
最高出力279psの3.5リッターV6エンジンに、リチウムイオンバッテリーを採用し20psを発生するモーターを組み合わせた。10・15モード燃費は11.2km/lとなり、S350より2.6km/l、S550ロングより3.7km/lも燃費を向上させている

さて、本題のSハイブリッド、日本で乗った感想はといえば……。正直に言うと、Sクラスとしても、ハイブリッド車としても、少し物足りなかった。意義は認めるし、技術も興味深いし、走ってしまえばちゃんとSクラスしているし、総論文句はないから「新しい時代のSクラスが見えてきた!?」なんて声高に言ってしまえれば(この仕事も)簡単なのだけれども……。

ところどころで、ちょっとした不満があって、それがSクラスの築いて来た“これまで”のステータス性と相容れないと思ってしまうのが惜しい。“これまで”、のだから“これから”は違う、と言われればそれまでなんだけれど。

まずは、以前にも書いたが、S400ハイブリッドという位置づけそのもの。1モーターの、いわゆるマイルドハイブリッドだから、プリウスなどとは根本的に存在理由の違うハイブリッド車である。

要するに、この手のハイブリッドカー(ビッグサルーンやSUV)は、極論をすればマイルドであろうとなかろうと、でかくてハイパワーなクルマに乗りたい人は、減ることはあっても無くなることはないので、彼らの欲望を十分に満たしつつ、せめて少しはマシな環境性能で乗ってもらおう、というメーカー側の都合と良心の産物だ。ホントはみんな小さいクルマに乗って欲しい、だなんてメーカーは思っていない。クルマにはいろんな価値があるということを、メーカーもユーザーも知っている。

レクサスLS600hを引き合いに出すと、判りやすい。このクルマは、600という名前が示す通り、従来ならば過給機付きV8かV12の領域だったパフォーマンスを、V8ハイブリッドで少しは環境に優しく提供しようというもの。逆にいえば、600という数字から連想されるパフォーマンスに需要があるからこそ、そういうユーザーが想定できるからこそ、600hの存在理由がある。

だとすれば、Sクラスの場合、最も需要が高いのはV8の550であり、ステータスシンボルはV12ツインターボの600だ。真にハイブリッドを問うならば、本当はV6+モーターで(400ではなく)550に近い性能、V8+モーターで600に相応しいパフォーマンス、が欲しいところ。そもそもS450やS400のない日本市場においては特に、S400ハイブリッドの、イメージはともかく、パフォーマンス上の価値がわかりづらい。だからこそ、Sハイブリッドという名前にしたのだと思うが……。

まあ、こんなことを言いだしても始まらないから、まずは輸入車初のハイブリッドモデルを、Sクラスで乗れることのニュース性と、ちょっとした感慨にふけりながら、試乗報告を。

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