乗り手が機械と一体になる“幸福感”が得られる

シトロエンC6
2005年のジュネーブショーに初登場したシトロエンのフラッグシップモデル。最高出力215psの3リッターエンジンに6ATを組み合わせる。価格は725万円、サイズは全長4910×全幅1860×全高1465mm

実はこのクルマ、オーナーとして乗っていた時期がある。一年ほどの付き合いだったけれども、非常に興味深い経験だった。

というわけで、久しぶりのC6。濃いグレーのボディカラーに、ボクが乗っていたのと同じ明るいベージュ内装。ハンドルまでベージュだから気を遣うが、実は思ったほど黒くなったりしない。もちろん、新車時の白さそのままというわけにはいかないが、かといって黒ずみが気になるというレベルまでにはならない。2万kmくらいまでの話だが。

いい意味で“ふるくさい”。最新モデルのように息つく暇を与えないというようなことはなく、ずいぶんオットリとしていて鷹揚、大らか。機械に急かされたり、機械に理路整然と詰め寄られたり、機械にすべてをかっさらわれたり、ということがない。ひと言でいえば、人間的。比べて最新のクルマは完璧なサイボーグであろうとしているから、積極的に付き合うのは逆にしんどい。C6には、スキがある。

だからと言って、いいことばかりじゃない。乗り手の体調によっては、そのまま乗っているのが嫌になることだってある。毎日、必ず同じライドフィールで迎えてくれるドイツ車や日本車とはそのあたりが違う。否、クルマは変わっていないのだけれども、乗り手の体調如何で、違うと思ってしまうところがミソ。

乗り始めは何だかバラバラだ。タイヤやシャシー、エンジン、ミッション、ボディ、シートがそれぞれに、思い思いのウォームアップをしているかのよう。乗ってしばらくは、指揮者のいない合奏のようだ。チューニングしたり、てんでばらばらに音を出したり……。だから体調が悪いと、早々にうんざりしてしまう。一度ならず、違うクルマに乗り換えたことだって、以前はあった。

シトロエンC6
フロントが長くリアは短いオーバーハングによる流麗なスタイルをもつ。独創的デザインと後方視界を両立させた凹面リアウインドウを採用

今回は、たった1週間の付き合いだし、そういう感覚を味わえるのも久しぶりだし、もうC6以外にそんなクルマもないだろうから、ずっと乗り通した。そして、発見。面白いことに、今日は何だか合わないなあ、という日でも、1時間もすれば自然に乗れているのだった。クルマがだんだんとひとつになっていくというか、ちょっと出番が遅れたけれど指揮者が現れたように、あるとき突然、調和して走り始める。その瞬間、得も言えぬ“幸福感”に包まれる。

こういう経験は、ほかに、90年代のベントレーでしか知らない。機械がようやく一体になった頃には、実は乗り手もそこに組み込まれていて、一緒になって“誰か”に操られている感覚。とても、不思議。多くのシトロエンファンは、ひょっとしてそんな見えざる手によってもたらされたライドフィールに酔いしれているのかも……。

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