これは21世紀という新たな時代において、瀕死の状態にあるスポーツカーを復権させるという意味でも、大いに賛同できる考え方である。自らが市場を狭めてしまうよりも、やはり新たなスポーツカーが出せる市場を構築することには非常に意義があるといえる。
またビジネスとして見た場合にもフェアレディZというクルマは興味深い。Zというブランドがアメリカにおいて未だ根強い人気を誇るという事実に即し、アメリカをメインターゲットとして作られたことは、このクルマを評価する上で忘れてはならないポイントである。今や自動車ビジネスでの成功を考えた場合、多くの台数が売れるアメリカ市場を無視することは不可能で、この地での成功がその車種での成功を占うともいえる。さらにアメリカに照準を定めることで多くの台数が販売できることを考えれば、クルマ1台辺りの単価を低く設定でき、魅力的な要素となりうる。さらにZの場合は、アメリカにおいて強いブランド性が築かれているので、この地のユーザーを意識したクルマとすれば、スポーツカービジネスを成功に導くことができる。それはポルシェが良い例で、かつて消滅の危機さえ迎えていたこの会社は、アメリカでのボクスターの成功によって今や優良企業にまでなっているのである。
大市場であるアメリカにスポーツカーでチャレンジし、このカテゴリーを再び魅力的なものとしようとしている戦略的な部分が今後どんな結果を生むかというところにも注目できるといえるだろう。
アメリカを強く意識したからか、マーケティングにおいてもフェアレディZは明確なものを掲げている。USP(ユニークセリングポイント)というのがそれで、Zでは3つのUSPを明確に設定した。1つ目はハイパフォーマンス、これは世界中の誰もがスポーツドライビングを楽しめる新しいスポーツ性を意味する。2つ目はデザイン、これは新しさの中にZらしさを主張したデザインであることを意味する。そして3つ目はハイバリュー、これはユーザーが価格から想定する以上の機能、デザイン、クオリティを実現するという意味である。
この3つを実際に出来上がったクルマに照らし合わせてみると、確かに全てを達成しており、結果商品として優れた仕上がりとなっているといえる。スポーツカーにとって厳しい時代でありながらも、様々な要素を上手く組み合わせることで魅力的な商品を作り上げた。さらに志として、スポーツカーの市場を広げようとする新たな試みがそこにある。そして大切なことを最後にひとつ、日産はこのフェアレディZの今後の売り方までをしっかりと約束している。これまでのように出しっぱなしにするのではなく、今後は可能な限りアップデートを続けることで、スポーツカーとしての熟成をしっかり図り、ひとつのブランドとして日本でも認知されるよう力を注いでいくのだという。それも含め、新型フェアレディZは非常に意義のあるスポーツカーだと評価できるのである。
客観的にみると、このような評価となる。さらにこういった2つの評価に加え、1人の人間として、両方の評価がミックスされたものもある。そう考えると、非常に悩ましい。 自動車ジャーナリストとしての評価といちクルマ好きとしての評価を融合すると、このクルマは非常に微妙な位置にある。
というのも、自動車ジャーナリストとして多いに賛同できるその志は、いちクルマ好きとしても賛同できるものであったり、いちクルマ好きとして寂しいと思える走りの世界は、自動車ジャーナリストとしても欲を言えば望みたい部分でもあるからである。
本来ならば自動車ジャーナリスト河口まなぶとして、1つの意見を断言し、みなさんにオススメできるのか否かを言えばOKなのだが、このクルマは断言してしまうにはあまりにも大きい存在である。その意味でも単純にいい悪いで判断することができない。実際に同業者の間でも評価は大きく分かれている。
果たしてこの文章は、またみなさんを混乱させる要因になってしまっただろうか? もし可能ならば、今度はみなさんがZを実際に試乗して、感じたことを送ってもらいたい。果たして私がこのように感じたZを、どのように感じるのか、ということにはやはりとても興味があるのだ。
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