乗り心地はランエボ7とはやや違う感覚。ランエボ特有の身体を揺らすような締まり感こそ残るが、それが伝わる感じは幾分マイルドだ。ランエボ7のあのハードな乗り心地に少しだけゆとりを与えたイメージである。騒音もわずかに減っている。これもやはり、ランエボ7のそれが少し穏やかになった感じだ。
ブレーキングしつつ、ステアリングスイッチで2速まで落とす。そして操舵すると、実にいい感じの感触が手のひらに返る。ステアリング・ギア比は、ランエボの13.0から14.2へと遅くされているわけだが、それが逆に良い印象を生んでいる。操舵自体に穏やかさがあっていい。同時にクルマの動きも収まりがいい。ランエボ7では常に高いゲインを生みだし切れ味鋭い動きを見せていたが、GT-Aではそれを少し弱めたことでエボ7よりも落ち着きある動きを見せてくれるのだ。
前後のバネ定数を落とし、ショックアブソーバーの減衰力を弱め、リアスタビライザーを柔らかくし、さらにフロントロアアームの前側ブッシュ、バンプストップラバーとリアアッパーアームの前後ブッシュ特性に至るまで専用のチューニングとしたことで、ランエボ7よりも安定感のある動きを作り出した。ただフロントスタビライザーはそのままとすることで、ダイレクト感とシャープさは残し、ロール特性はGSRと同等ながらより扱いやすいものとした。それらが全てバランスすると、そこには楽しいけどあまりに切れ味が鋭すぎて毎日乗るのはちょっとハードに感じたエボ7の感覚が薄れ、いい具合の穏やかさを手に入れている。
スロットルをオフにすると、GT-AはCMよろしくすぐに姿勢を変化させてテールが流れていく。しかし、あわてる必要はない。カウンターステアもほとんど必要なく、ただスロットルを再び開ければ狙ったラインを維持する。AYC+ACDの効果は絶大だ。これによりドライバーはステアリングとスロットル操作を組み合わせるだけで、後は自在に振り回すことができる。しかもAYC+ACDが「気持ちいい姿勢」を作ってくれるのがポイントだ。またこんな状況でシフト操作+クラッチ操作が不要だから、ドライバーは純粋にクルマの動きに集中できるのである。これぞGT-Aならではの部分だろう。
ただしタイトなコーナーでは、このエンジン+ATの組み合わせが恨めしく思えることも。というのも一度回転を落とすと、やはりラグは大きく感じられるのが本音だ。一般道でも試乗したが、この時乗り心地はやはりハードな部類だと感じた。我慢できないとは言わないが、もっとしなやかさが欲しいのは事実である。5速ATも低速域ではやや走りづらさを助長する傾向がある。もっともそれと引き替えに、ATながらも類い希なるパフォーマンスを得られるクルマに仕上がっているのだが。
まとめてみると、GT-Aには2つの評価が与えられる。ひとつはATながらランエボ7に近い性能や切れ味の良さをイージーに堪能できるという評価。一方ではAT化によって、結果的に中途半端に思える部分も生まれたという評価である。
ただ個人的には、過激な2.0LターボをATで操るというそれが、とても未来的なもののようにも思えた。ハイテク日本ならではのクルマという風にも思えるのである。
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