出生率の低下が危機感をもって語られる中、保育園整備などの子育て支援策が少子化対策として位置づけられることが多くなっています。しかし、子育て支援策は出生率上昇のためだけにあるのでしょうか?
少子化の原因は様々な要因によるもの。 |
少子化の原因と対策
出生率の低下に対する政府の政策は、1990年代の半ばまではおもに「保育園を充実させる」など、女性が仕事と育児を両立させることがメインでした(前田正子『子育ては、いま』より )。その後、専業主婦への子育て支援なども進められてきますが、基本的には「女性の仕事と育児の両立」「男性の働き方の見直し」などの男女共同参画的な方策が採られています。
それは少子化の原因が、かつての「女性の高学歴化や社会進出が晩婚化・未婚化につながり、少子化になる(赤川学『子どもが減って何が悪いか!』より)」という見方から、「女性が出産した後も仕事と育児を両立できるような環境が整っていないため」という認識に変わっていったことによるものです。「男女がともに仕事と生活を大事にできるような生き方」を目指しているのが、2004年現在の政府の考える少子化対策であると言えます。
政府の少子化対策は、出生率を上昇させない?
しかし、一方で「これまでの政府の少子化対策は効果があったのか?」という疑問の声が上がっているのも事実です。2004年12月に出版された赤川学氏『子どもが減って何が悪いか!』にはその点が鋭く指摘されています。「男女共同参画が進んでいる国ほど出生率が高い」という国際比較データには根拠がない。男女共同参画の実現と出生率の増減には何の因果関係もない。だからといって男女共同参画が必要ないというつもりはないが、この両者は分けて考えるべきだ、というのが赤川氏の主張です。
もちろん、男女共同参画を推進する立場の人が「男女共同参画の実現は、出生率を回復させる」と断言しているのなら、それについては「違う」というべきでしょう。その点では赤川氏の主張は正論です。
「政策で出生率を上昇させることは不可能」という現実
「子どもを産むかどうか、いつ産むか、何人産むか」はあくまで個人的な問題です。政策によって「多少産む条件が整備された」からと言って、個人の人生設計が大きく変わることはあまりないはずです。そういった意味では、「出生率を上昇させるための政府の少子化対策」が「成果」を出すのはよほどのこと(多額の出産奨励金など)がない限り、限界があります。子育て支援は「子どもの人権」
では、「政府の少子化対策」は必要ないものなのでしょうか?ガイドはこう考えます。子どもが増えるか減るかに関わらず、ひとりひとりの子どものために必要なものである、と。「子育て支援の根拠を、すべての子どもが健康で文化的な生活を営む権利を保障するという人権の観点から基礎づけるべき」というのは、赤川氏も指摘したところです。
現金支給より保育サービスを
ただし、赤川氏の「子育て支援は、保育サービスより現金支給が望ましい」という意見には、ガイドは異論があります。理由は、保育を市場原理に任せることは、子どもの人権を守ることとは一致しないからです。前田正子氏『保育園は、いま』の中では、「市場任せ」の米国の保育事情について次のように述べられています。
1 低賃金のため保育者の転職率が高い
2 コストを下げるために、大勢の子どもに対して、保育者が少ししかいない
3 保育者の教育水準が低い
4 それぞれの保育の質によるバラツキが大きい(ノースカロライナ大学・ブラウ教授の分析による)
「ビジネスによる保育サービスを全て否定するわけではないけれど、毎日長時間預けられる子どもたちの保育は、それなりの高い水準と環境のものでなくてはならない」というのが前田氏の主張です。ガイドも同意見です。
問題は財源の分配
保育園入園を希望する待機児が増え続ける現在、保育の質を維持するためには、政府としてある程度の税金を投入し続けることが避けられません。「出生率の上昇」という成果が得られなくても、「子どもの人権」のために税金を割くことに、人々の理解が得られるのか。今私たちが直面しているのはこういった問題なのです。子どもを持つ人、持たない人、全てに納得のいく政策の実現は困難ですが、今、ひとりひとりが考えていかなければならないことではないかとガイドは考えます。
保育園を増やしても、今子どもを産もうと思っていない人に産ませることはできないでしょう。でも、今すでに存在している子どもとこれから生まれてくる子どものために、保育園の質と量の整備は必要なのです。
■参考文献■
赤川学『子どもが減って何が悪いか!』ちくま新書
前田正子『保育園は、いま』岩波書店
前田正子『子育ては、いま』岩波書店
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