今回ご紹介するのは、私たちが設計・監理した、山梨県甲府市の「BEAM」。もうすぐ築4年を迎える、私たちにとって2件目のオール電化住宅です。
この住宅の特徴は、「玄関がなく、4人家族なのに寝室が一つしかない」という、ちょっと変わったプランニングにあります。

キャプション

山梨県甲府市にある「BEAM」。スクエアな外観が特徴的な築4年目のオール電化住宅です。


そしてもう一つのトピックは、普通の住宅のつもりで設計したはずのこの住宅で、驚いたことに、建主のAさん一家が去年から、移動車両を使ったクレープ屋さんを始めたこと。しかも「BEAMはクレープ屋さんにピッタリの設計」だったのだとか。
私たちもビックリのこの展開。いったい何が起きたのでしょうか?さっそく「BEAM」誕生のエピソードから、ご紹介していきましょう!


「欲しい部屋」より「欲しいライフスタイル」を

私たちが「BEAM」の建主、Aさんに出会ったのは、2005年のことです。
当時、自宅の新築を考えていたAさんは、近くの工務店にプラン作成を依頼したものの、単にAさんの希望通りに部屋を並べただけでは建物の規模が大きくなってしまい、予算と折り合いが付かずに困っていました。

相談を受けた私たちは、Aさんから、「欲しい部屋ではなく、欲しいライフスタイル」をヒアリングすることにしました。なぜなら使い勝手さえ良ければ、必ずしも目的ごとに「専用の部屋」が必要とは限らないからです。

Aさん一家は、ソファでくつろいで過ごす時間よりも、キッチンの近くで家事をしたり、宿題や読書をしたり、家族の気配を互いに感じながら、思い思いに過ごす時間が欲しいようでした。そこで私たちはまず、居間をコンパクトにする一方、食堂は思い切って広くして、眺めも良い場所に置きました。食堂の天井は3mの高さがあり、ダイニングテーブルも4人家族としてはかなり大きなものにしています。私たちは、このテーブルを「生活の中心」として、食事以外の時間にも多目的に使えるようにしたいと考えたのです。
次に、来客が泊まる場合に備えて、居間を食堂から引戸で仕切れるように工夫し、ゲストルームをなくしてしまいました。

キャプション

手前が広々とした食堂、奥が居間。両スペースは、引き戸で仕切れるようになっており、来客の際には居間がそのままゲストルームになります。



キャプション

キッチンから階段を下りると「家事コーナー」が。日差したっぷりで、室内乾燥機も設置してあるので、いつでも洗濯物を干すことができます。

奥様が欲しかった家事室は、キッチンを普通より広めにして「家事コーナー」を作って解決。それだけでなく、居間から寝室に行くときに、この広いキッチンを必ず通るようにして、廊下もなくしてしまいました。


私たちが考えたのは、たくさんの「部屋」があるのではなく、色々な目的に使える「場所」がある家、というコンセプトです。こうして「場所の多目的化」を進めた結果、全体の面積はコンパクトになったのに、一つ一つの空間は、ゆったりと余裕のある大きさになりました。



玄関のない家!?

そして私たちが次に考えたのが、「玄関をなくしてしまう」ことです。
敷地の広さには比較的余裕があったにも関わらず、Aさんは当初から「庭は要らない」と考えていました。その一方で、子供達が安全に遊べるように、「2階の居間か食堂に面したところに、広いテラスが欲しい」とも。
キャプション

食堂に面したテラス。テラスから食堂に入るところが、この家の実質的な玄関と言えるかもしれません。


2階に居間・食堂を作り、1階を寝室・子供部屋にした場合、普通の家のように1階に玄関を付けると、居間・食堂を通らずに子供部屋に行けるので、子供部屋が孤立してしまいます。
そこで私たちは、外階段で2階のテラスに直接上がり、テラスから家に入ることを考えたのです。

キャプション

車の左に見えるのが、2階へあがる外階段。オートロックで、防犯面でも安心。

外階段を上る手前には、強化ガラスの扉を作り、オートロックの電子錠を付けました。こうすれば、テラスに上がれるのは電子錠を開けてもらった人だけになり、プライバシーが保てるので、食堂をテラスから隠す必要がなくなります。

こうした工夫を積み重ねた結果、テラスから直接中に入る「玄関のない家」ができたのです。
一風変わって見える「BEAM」のプランですが、考えてみれば日本の伝統的な町家は、扉を開けて「通り庭(土間)」に入り、そこから居室に上がるようになっているのが普通。「BEAM」のプランは、伝統的な「通り庭」を2階のテラスに置き換えたのだ、と考えれば、少し分かりやすいかもしれませんね。

全窓にペアガラス採用。そのための工夫とは? >次ページ