臓器移植法の改正が必要な背景
小さな子供でも、難病に侵されていると臓器移植が必要なケースは多い。
しかしながら97年の法律では提供に至るまでの条件が厳しかったため、臓器提供は思ったほど多く可能にはなりませんでした。97年からこれまでの10年余りで、脳死患者から実際に臓器が提供された事例は、わずか70件程度と言われています。
アメリカでは年間に6000件程度の脳死患者からの臓器提供が行われており、それに比べるとまだまだ遅れているのが日本の臓器提供の現状です。そのため、臓器移植が必要な病に侵されている人が、高いお金をもってアメリカなど海外に渡航し、海外で臓器移植手術を受ける例が後を絶ちません。海外では日本の健康保険も当然きかないので、旅費や手術費を合わせると費用が数千万円になってしまうことも珍しくありません。
そういった臓器移植患者や家族の負担を減らすため、かつ臓器移植が必要な患者に臓器が少しでも提供されやすいよう、今回の法改正となりました。
改正臓器移植法の概要
今回の改正法では、臓器移植が容易になるような措置がいくつか実行されています。
■事前に臓器提供の意思表示をしていなくても「死」とみなすこれまでの法律では、脳死患者が事前に書面で臓器提供の意思表示をしていた場合のみ、脳死段階で「死」とみなし臓器提供が可能でした。しかし、今回の改正で事前の書面による意思表示がなくても、脳死になれば「死」とみなして臓器提供が可能になっています。もちろん、残された親族が拒否することは可能です。
■本人の事前の意思表示がなくても移植が可能に
これも上記項目と同様の変更ですが、これまでは脳死患者本人が事前に書面で臓器移植の意思を表明していた場合のみ移植が可能でした。当然ながら、脳死後の親族の承諾も必要です。
今回の改正で、事前の本人の意思表明がなくとも、脳死後の親族の承諾だけで臓器移植ができるようになりました。ただし、事前に本人が拒否の意思を表明していたら、移植はできません。
つまり、これまでは「イエス」と言っていないとダメだったものが、「ノー」と言っていなければ(イエスもノーもない状態でも)OKになったわけです。
■15歳未満の児童からの移植も可能に
これまでは15歳未満の児童からの臓器移植は禁止されていましたが、今後は可能になりました。
■親族への優先提供が義務に
今回の改正では、脳死患者の親族が臓器を必要としていた場合、優先的に移植することが義務づけられました。
改正により考えられる問題
改正臓器移植法はよりスムーズな臓器移植を目指していますが、どんな制度改正でもそうであるように起こりうる問題も考えられます。■身寄りのない人は自動的に提供者に
本人による事前の意思表示がなくても臓器提供できるようになったため、身寄りのない人などは脳死になると自動的に臓器提供者になってしまう可能性があります。
脳死後は親族が反対できるのですが、親族のいない人は反対することもできません。事前に拒否の意思表明をしていなければ、そのまま他人の判断で勝手に臓器移植をされる可能性があります。
意思表示をするにはどうしたら?
7月17日から法律が改正されたとして、臓器提供のイエス・ノーの意思表示はどうすればできるのでしょうか?日本臓器移植ネットワークは、個人が臓器を提供する意思があるかどうかを明示するカードとして、臓器提供意思表示カードを作成・配布しています。
カード自体は以前からありましたが、7月17日からの法改正に合わせて新しくなります。新しいカードは各自治体の窓口や運転免許試験場、コンビニエンスストアなど全国約3万4000カ所に説明のリーフレットとともに設置され、そこから自由に持っていくことが可能です。
カード上には、「脳死後に臓器提供をする意思があるか否か」選択して丸をつけるようになっているので、署名とともにそこに記入すれば意思表示ができたことになります。
また、日本臓器移植ネットワークのホームページから、ネット上で手続きを進めることも可能です。
臓器移植法の改正は「命」に関わるとても大事なこと。この機会に臓器提供の意思についてよく考えてみるのもいいのではないでしょうか。