企業価値を意識した経営が浸透 |
社債の発行規模が増大
日本経済新聞によると、今年度上半期の社債の発行市場は前年同期に比べると50%以上増えるとのことです。サブプライムローン問題をきっかけとして投資家がリスクに対して敏感になっていることから、株式よりも債券が人気を集める中で、金利が下がり、社債を発行する条件がよくなった局面を捕らえて企業がタイミングよく社債の発行を行っていることが背景にあるようです。
背景に自己資本比率の上昇
社債の発行環境が好転したことが背景にあるのは間違いないでしょうが、同時に、企業の資本構成が過去5年~10年の間に変化をしてきたことも背景にあるはずです。それは、企業が有利子負債の返済を行い、自己資本比率を向上させてきたことです。企業はバブル崩壊後も借金を抱えすぎていた時代が長く続き、その存在により業績回復が遅れたという事情があったので、ここ10間はせっせと借入金の返済を優先してきました。
しかし、今や景気が回復し、今後はより攻め型経営にシフトをしていく中においては、積極的な投資を行う必要性が生じています。また、自己資本比率もある程度上昇したので、有利子負債を抱える余地も増しています。そんな中で社債の発行環境が整ったので、タイミングとして非常によかったと言えます。
株式による発行は手間暇コストがかかる
一方、2004年、2005年、2006年は株式の発行による資金調達が旺盛でした。それまでは株価が下落傾向が続いたので、そもそも株式による資金調達ができないという状況にあったものが、株価の回復によりやっと株式による資金調達ができるようになったのです。また、株式ではなくとも、転換社債と言う形で実質的に株式による資金調達を行う企業も多く、両方を合わせたエクイティファイナンスが旺盛でした。
借入金多寡により苦しみを味わった企業にしてみると、やはり株式による資金調達は魅力的に見えたのでしょう。また、同時にM&Aも盛り上がっていた局面でもあり、そういう積極的な投資のためであれば株式投資家も応援してくれるという背景もありました。
しかし、株式を発行すれば株数が増えて、一株当たり利益の減少につながります。また、浮動株が増えることで敵対的買収のリスクが高まります。そして、株式による資金調達の場合は、投資家に対する説明書類などの手間が社債に比べると圧倒的に面倒です。これら弊害を企業が認識し始めたことも、今年は企業が社債に傾倒する一つの要因だと思います。
むしろ自社株買いが旺盛
サブプライム問題によって社債の発行環境が好転したと同時に、株式市場は軟調です。そんな中、企業は積極的に自社株買いを実施しています。朝日新聞によると今年の8月は過去最高水準に達したとのことです。自社株買いとは文字通り市場から自社の株式を買い付けることです。株価が安い時期に行う方が企業にとってはメリットが大きく、自社株買いは配当と並んで株主還元の一つの方策であります。したがって株主にとっては配当増額と同じ効果があります。お金の使い道として、以前であれば借入金の返済に使っていたものが、今や借入金の返済は一段楽したので、自社株買いにお金を回す余裕が出てきたとも言えます。
企業の資本コストは低減
これら一連の流れをまとめると、企業は自社株買いにより時価総額を低くすると同時に、借入金の割合を高めることにより、資本コストを低減させる効果があります。資本コストとは会社の資金調達コストのことですが、借入金による資金調達のほうが株式発行による資金調達よりも低いため、借入金割合が高まると資本コストは低下します。もちろん、倒産しそうなぐらいにまで借金比率を高めてしまうと逆効果ですが、資本コストが低下すると企業価値は増加します。
ここ数年間でどの企業でも企業価値が意識されていますが、社債の発行規模の増額と旺盛な自社株買いによる資本構成の変化は、まさにその動きの一つとして外部に見える形で現れたものだと理解できます。
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