ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

2014年11~12月の注目!ミュージカル(6ページ目)

深まりゆく秋の空気に冬の寒気が感じられるようになってきました。人恋しい季節には、ロマンティックなミュージカルはいかがでしょうか。今回は『Onceダブリンの街角で』『スリル・ミー』『BEFORE AFTER』『コンタクト』『マザー・テレサ 愛のうた』『金魚鉢』『bare』『劇団四季FESTIVAL! 扉の向こうへ』をご紹介します。開幕後は随時観劇レポートも追記していきますので、お楽しみに!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド


コンタクト

11月16日~12月7日=自由劇場 

『コンタクト』

『コンタクト』

【見どころ】
1999年にオフ・ブロードウェイ、翌年ブロードウェイで開幕し、最優秀作品賞、振付賞を含む4部門を受賞した『コンタクト』。従来のミュージカルではありえなかった「歌わない」舞台ながら、「ダンス・プレイ」という名目でミュージカルの一分野として認識された、エポックメイキングな作品です。

3つのストーリーからなるオムニバス形式の本作では、フラゴナールの名画に想を得た男女3人の無邪気な愛の戯れ、1954年のニューヨークを舞台とした、横暴な夫を持つ女の切ない白昼夢、そして現代のニューヨークで生きる気力を失った広告マンの幻想が展開。それぞれに共通するのは、人は人との関係性なしでは生きていけないという“コンタクト(触れ合い)願望”です。当時すでに『クレイジー・フォー・ユー』で振付家としての名声を得ていたスーザン・ストローマンにとって、演出も手掛けた初の作品。シーンごとにがらりと変わるダンスを生き生きと踊りこなすキャストにも注目です。
『コンタクト』パート3undefined撮影:山之上雅信

『コンタクト』パート3 撮影:山之上雅信

【観劇ミニ・レポート】
パート1「swinging」は18世紀ヨーロッパの屋外で繰り広げられる、男女3人の恋の遊戯がテーマ。「恋人たち」を演じる男女の仲が次第にエスカレートしてゆくことが、ブランコ上の女性の振付で大胆に描かれ、それを受けて松島勇気さん演じる召使がいらいらを募らせてゆく様子が言葉のない世界で明確に表現。貴婦人役の相馬杏奈さんは躍動感に溢れ、貴族役のツェザリ・モゼレフスキーさんがいかにも優雅な物腰を見せることで、最後のどんでん返しが鮮やかなものに。
『コンタクト』パート2undefined撮影:下坂敦俊

『コンタクト』パート2 撮影:下坂敦俊

小粋な導入に気分を良くしていると、観客は50年代のとあるレストランを舞台とするパート2の「Did You Move?」で、支配的な夫に抑圧される妻の切ない妄想に対峙することに。「動くな」「ほかの人間と口をきくな」と勝手なことばかり言われながらも従う彼女ですが、夫が席を立つたびに音楽に心奪われ、妄想の中で踊りだす。演じる坂田加奈子さんの、空を切り裂くような鋭い足さばきに女の思いの強さが、そしてこの人、いつまでも夫の横暴さに我慢はしていないのでは?といった希望が滲みます。妄想の中のダンスと現実のシーン双方をアンサンブルが生き生きと盛り立てていますが、中でも面白いのが、なかなかパンを運んでこないウェイター役の水原俊さん。一連の行動を通して人がよく、それなりの美学を持って仕事はしているけれど、アバウトでもある、といった人物像が浮かびあがり、シーンにリアリティを与えています。
『コンタクト』パート3undefined撮影:山之上雅信

『コンタクト』パート3 撮影:山之上雅信

「現代」の都会が舞台のパート3「Contact」になると、シリアスさの度合いもぐっと増し、広告マンの主人公は仕事上の成功とは裏腹に、孤独で自殺願望を抑えきれない。それが、人々が集い踊るバーに紛れ込み、魅力的な「黄色いドレスの女」に出会うことで「人とかかわる、人を知る」きっかけを掴んでゆく様が、言葉の一言一言にその苦悩を刻み付ける主人公役・田邊真也さんの演技により、鬼気迫る迫真性をもって描かれます。今回は特に、バーでのダンス・シーンが出色。野性味あふれる松島さん、エネルギッシュな西尾健治さん、力強い大森瑞樹さん、形のきれいな岩崎晋也さんら劇団のエース級の、しかも個性の異なるダンサーたちが集い、生きる気力を失った主人公とは対照的な、生気漲るダンスを披露。そんななか、優雅なシルエットとともに「黄色いドレスの女」が登場するのですが、演じる井上佳奈さんがロックナンバー「Simply Irresistibe(拒めないくらい魅力的)」で、人々が地にリズムを突き刺すように踊るなかで一人、妖精のように軽々とステップを踏み、「夢の女」をみごとに体現しています。

このバーのシーンで気づかされるのが、パート1で恋人たちを演じたモゼレフスキーさんと相馬さんがカップルとして踊っていること。一見それぞれ独立したパート1,2,3の関連性が思い起こされ、人間が「人とのつながり」無しでは生きてはいけないこと、そして時代が下るにつれその機会が失われ、テクノロジーの発展によって逆に人間が「つながりの喪失」の危機にあることを痛感させられます。99年の本作発表時より遥かにネットが普及し、SNSだけで「人とつながっている」と錯覚することも容易な今。この瞬間を生きる私たちが身につまされずにはいられない、深い感慨を与える舞台となっています。

*次ページで『マザー・テレサ 愛のうた』以降の作品をご紹介します!
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