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日曜日の政治用語 オンブズマン

今週の政治用語はオンブズマンを取り上げます。スウェーデンで生まれ、西欧諸国に広がりを見せているオンブズマン制度。はたしてどういうものなのでしょうか。そして日本では?

執筆者:辻 雅之

(記事掲載日/2008.5.25)

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国民の「代理人」=オンブズマン

オンブズマン制度
オンブズマンは行政の監視だけでなく、市民の具体的な人権救済を行う。
オンブズマンという言葉は「代理人」という意味のスウェーデン語です。これが示す通り、オンブズマン制度はスウェーデンで生まれたものです。

つまり、国民・市民の代理人として、行政が違法・不当なことをして人権侵害をしていないかを、独立した立場で常に監視する機関が、オンブズマンというわけです。

民主主義体制の議会には行政機関の監督権が必ず置かれていますが、実際のところ、たくさんの公務員を抱える行政機関を少数の議員が監視することは難しいことです。また、議員は法律の審議という仕事も抱えていて、常時行政機関を監視するわけにもいきません。

そのため、「議会の代理人」としてオンブズマンが置かれ、大きな権限を与えて行政機関の監視に専念してもらうようになったのです。

しかし現在は「市民の代理人」としてとらえられ、市民の苦情処理もその業務の一環とし、その苦情をもとに調査し、不当なことを行った公務員を訴追するなどするようになっています。

このオンブズマン制度は現在スウェーデンだけでなく、多くの西欧諸国で採用されています。

もっともスウェーデンのように議会が設置、任命する「議会型」だけではなく、フランスのように行政機関が設置、任命する「行政型」のオンブズマンもあります。しかし後者の場合も、行政機関からの独立性は保障されているようです。

アメリカでは国政レベルでは置かれていませんが、州政府レベルで採用している州がいくつかあります。

日本のオンブズマン制度

オンブズマン制度
行政の多様化にともない、いろいろな種類のオンブズマンが設置されるようにもなってきている。
日本では国政レベルでのオンブズマン制度はありません。

総務省の行政評価局が行政評価と監視、苦情受付などを含めた行政相談を担当していますが、あくまでこれは内部部局ですから、本来のオンブズマン制度とはいえません。

自治体レベルでは、オンブズマン制度を取り入れているところがあります。

最初に導入したのが川崎市です。川崎市は「市民オンブズマン条例」を作り、オンブズマンを設置しました。2人のオンブズマンを議会の同意を得て市長が任命しますが、原則解職されることがないため(心身の故障時・非行があったときは解職できる)、独立しているといっていいでしょう。

また川崎市は「人権オンブズパーソン」も設けています。さまざまな場面の人権侵害(いじめ、虐待、セクハラ、DV)などの申し立てについて相談・救済などを行う機関として設置されています。

また東京都中野区には、福祉サービスについての苦情を受け付け、区に対し是正を求める「福祉オンブズマン」が置かれています。福祉オンブズマンは多摩市にも置かれています。

このように細かな領域ごとにオンブズマンが置かれるのは本家スウェーデンでも一緒で、スウェーデンには「消費者オンブズマン」「公正取引オンブズマン」「男女雇用オンブズマン」「子どものためのオンブズマン」などが置かれています。

一方、このような制度がない自治体では、市民たちが「市民オンブズマン」と称してボランティア的に行政監視を行っています。もちろん制度上のものではありませんが、住民監査請求や訴訟などを通じて活発に活動しているところもあります。

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■関連サイト スウェーデン政治の基礎知識2006

※参考書籍・サイト
『『地方自治の現代用語』 阿部斉・澤井勝・今村都南雄ほか 2005 学陽書房
『[新版]現代政治学小辞典』阿部斉・内田満・高柳先男/編 1999 有斐閣
『スウェーデンの政治』 岡沢憲芙・奥島孝康/編 1994 早稲田大学出版部

川崎市ホームページ
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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