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「大陸棚」の基礎知識(3ページ目)

日中ガス田問題で浮上する「大陸棚」問題。大陸棚とは国際法上どのような扱いになっているのか。そして、その境界線をひくための原則とは?なるべくわかりやすく解説してみました。

執筆者:辻 雅之

1ページ目 【「大陸棚」と「排他的経済水域」の違いとは?】
2ページ目 【大陸棚の境界線を決めるとされる「衡平の原則」とは?】
3ページ目 【東シナ海、日本と中国に「衡平な原則」を適用したら?】

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【東シナ海、日本と中国に「衡平な原則」を適用したら?】

中国から伸びている「広大な大陸棚」

地図を見ると一目瞭然ですが、東シナ海には中国から「伸びている」ようにみえる大陸棚がたくさんあります。

これがすべて「中国の大陸棚」と主張されると、漁業は海底ではないので関係なくても、地下資源の採掘権は日本には一切ない、というふうにされてしまいます。

さきほどいったように、「衡平の原則=中間線、等距離原則ではない」という国際判例があるのは不利に見えます。

また、日本領である尖閣諸島がこの大陸棚に乗っかっているのも問題です。中国との領有権争いがある尖閣諸島ですが、中国側が百歩譲って日本の領有を認めたとしても、まわりは全部中国の大陸棚、ということにもなりかねません(前ページの英仏海峡大陸棚事件の判例より)。

東シナ海のほとんどの資源は中国の大陸棚?

というわけなのかどうなのか、中国は日本と中国の沿岸からの中間線(日中中間線)付近で(一応中国側ですが)ガス田採掘を行っています。

しかし、海底がどうなっているのか。中間線付近で天然ガスが出る、となると、日本側の海底にも天然ガスが眠っている可能性、高いです。

しかし、中国は「ここらいったいは全部中国の大陸棚であり、問題ない」ということで、これからも掘削・ガス産出を続けるようです。

これについて、日本側からは「中国が一方的に日本側の資源を奪っている」という指摘があります。

 

さて、これを「衡平の原則」にあてはめるとどうなるのでしょうか。

「衡平の原則」が「等距離原則ではない」ことは述べました。あくまでみんなが納得できる、それが「衡平の原則」と国際司法裁判所は考えています。

もし、中国が東シナ海の大陸棚を独占してしまうと、日本にとっては明らかに不利です。ちょっと衡平ではないかもしれません。

東シナ海というのは古代から日本と中国の船が行き来し、貿易にとって重要な航路となっていたところです。中国の海、というよりは、日中共同の海、と考えるべきでしょう。

そう考えると、やはり日本にも応分の大陸棚の割り当てが必要、と判断されるかもしれません。

もしくは、EEZは海底の資源の優先権もあるわけですから、日中は大陸棚を設定せず、中間線を原則にEEZのみを設定する。これも、「衡平な原則」からいって妥当なような気がします。

「価値のない水域」にへたに手を出す必要性は?

ただ、中国のガス田については、日本も冷静になる必要があるかもしれません。

まず、どれだけ埋蔵されているのか、そして採掘して利益が上がるのか、それはまだ未知数です。

中国は、天然ガス目当て、というよりは、ナショナリズム高揚のためにあえてこの事業をやっている節が見受けられます。日本への挑発もあるかもしれません。利益がでるのかどうか、見込んでいるのでしょうか。

もしここで採掘しても赤字、ということになるのに中国に対抗して日本も採掘、ということになると、新たな紛争の火種を起こしかねません。

中国は日本に「靖国カード」「歴史認識カード」「常任理事国反対カード」などさまざまな強力なカードをもっています。日本はといえばせいぜい「ODAカード」くらい。

ここで「大陸棚カード」まで中国に持たせるのが適切かどうか。見極める必要があるでしょう。もちろん、この海洋の資源調査を行うことは日本の主権的権利であり、とやかくいわれる筋合いはありませんが。

中国が掘り、日本が買う東シナ天然ガス……お得なのはどっち?

ですから、もし調査の結果、「このガス田はコスト高」と判断すれば、日本は撤退すべきでしょう。

共産党がスローガンに「省エネ」を掲げているくらいで、そのうちコスト高の天然ガスが余って困るかもしれません。それを「円建て(円で支払う)」で日本が買う。

中国は円をどこへの支払いに当てるか。日本企業への支払いにあてるしかありません。こうして中国への円は回収されるでしょう。

数十年後にはいろんなものが燃料電池で動いているかもしれないわけで、力はその分野に傾け、大国の余裕を見せるのもいいのかもしれません。

▼こちらもご参照下さい。
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◎「日中中間線」「中国大陸棚限界線」どっちが「衡平な原則」?


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