世界遺産/アメリカの世界遺産

ナスカの地上絵/ペルー(4ページ目)

あまりの大きさに偶然上空を飛行機が飛ぶまで千年以上も発見されなかった地上絵の数々。最大の図形は宇宙空間からでしか確認できないという。今回はペルーの世界遺産「ナスカとフマナ平原の地上絵」の謎に迫る。

長谷川 大

執筆者:長谷川 大

世界遺産ガイド

ナスカより古いパルパの地上絵

ナスカでもっとも多いのはこのような直線や幾何学模様だ。右下にミラドールがあり、「木」や「手」が写っているはずだが、小さすぎて見えない。図形がいかに大きいかわかる ©牧哲雄

ナスカでもっとも多いのはこのような直線や幾何学模様だ。右下にミラドールがあり、「木」や「手」が写っているはずだが、小さすぎて見えない。図形がいかに大きいかわかる ©牧哲雄

ナスカ文化以前の紀元前9~紀元前1世紀、パラカス文化が栄えていたナスカの北40kmに位置するパルパの山中で、近年多くの地上絵が発見された。ナスカのように数多くの直線に覆われた山や台地の山腹に、人間や動植物の雑多な地上絵が描かれていた。パルパでは地上絵の他に多くの岩絵や土器が発見されており、地上絵とよく似た図形が描かれていた。

この時代の地上絵には一筆書きではないものも多く、その技術はナスカに比べてよくいえば自由だが、確立されていない印象を受ける。ここから、パラカス人がなんらかの理由で乾燥地帯であるナスカに移動し、有名な地上絵に発達させたのではないかといわれている。

地上絵はチリのアタカマ砂漠などでも発見されているし、チャビン文化などの土器の文様とナスカの地上絵の共通点も指摘されている。地上絵の世界観はいまだ謎に包まれているが、いずれ南米のどこかでその源流となる決定的な発見がなされるかもしれない。

消えゆく地上絵

全長46mの「クモ」。地上絵は他に「クジラ」「トカゲ」「アルカトラズ」「イグアナ」「オウム」「植物」などがある ©牧哲雄

全長46mの「クモ」。地上絵は他に「クジラ」「トカゲ」「アルカトラズ」「イグアナ」「植物」などがある ©牧哲雄

地上絵の上をパン・アメリカン・ハイウェイが通っているのは先述の通りだが、よく見ると車の轍(わだち)もあちこちにある。地上絵は柵などで囲われていないため、入ろうと思えばいくらでも入れてしまう。

マリア・ライヘ博物館にあるマリア・ライヘの墓。彼女がいなければ地上絵はさらに破壊されていたといわれる ©牧哲雄

マリア・ライヘ博物館にあるマリア・ライヘの墓。彼女がいなければ地上絵はさらに破壊されていたといわれる ©牧哲雄

また、チリからエクアドルにかけて南米の太平洋岸は礫砂漠が広がるほど乾燥しているのだが、近年エルニーニョ現象などの気候変動の影響を受けて降水量が急激に増えているという。ペルー太平洋岸には「危機にさらされている世界遺産」に登録されている「チャンチャン遺跡地帯」があるが、これまでになかった大雨やアンデスの氷河融解の影響を受けて、日干しレンガが溶け出しはじめている。

実は太平洋岸の遺跡はほとんどこの影響を受けている。ナスカとフマナ平原の地上絵も例外ではない。地上絵が危機遺産に登録される日も遠くないのかもしれない。
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