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ウイスキー&バー/ウイスキー&バーの美味しい話

ウイスキーづくりの職人第2回 千利休の愛した水とウイスキー

ジャパニーズウイスキーは、千利休がかつて愛した水から生まれたことをご存じだろうか。そしていまも変わらずその水でウイスキーがつくられている。利休の水の記憶。それを解明しようとしている米澤岳志氏のお話。

協力:サントリー
達磨 信

執筆者:達磨 信

ウイスキー&バーガイド

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茶とウイスキーの美しい関係

茶聖、千利休。彼が侘び茶の世界を拓いたのは京都郊外、天王山の麓、山崎の地だった。

本能寺で織田信長を倒した明智光秀と、それを伝え聞き西国街道をひたすら戻った羽紫秀吉がぶつかり合ったのがこの地である。1582年のことで、山崎の合戦と呼ばれている。

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山崎蒸溜所内の竹林。絶えることなく湧き出る清水はウイスキーの仕込み水に使われている。
いまでもスポーツをはじめとした勝負ごとで“天王山”の言葉を耳にする。雌雄を決する天下分け目の戦いの代名詞“天王山”は、光秀と秀吉の合戦の舞台に由来しているのだ。

この時、天王山に山崎城を築いた秀吉のために、千利休が麓に茶室『待庵』を築いた。天王山の竹林に湧く清水で茶を点て、侘び茶、草庵の茶の第一歩を記している。

茶聖の愛した水の湧くところ、侘び茶の世界へ踏み入れた地、そこがジャパニーズウイスキーの故郷となった。

1923年、日本初のウイスキー工場、山崎蒸溜所の建設が着工された。サントリーの創業者、鳥井信治郎が天王山の麓の山崎峡の地形、気候風土、そして水に惚れ込んだからであり、ウイスキーづくりの理想郷であったからだ。

つまり千利休の愛した水は、ウイスキーづくりにも最適だった訳である。いまでも天王山の竹林から清水はこんこんと湧き、それがウイスキーの仕込み水に使われている。そして山崎蒸溜所からほど近い、JR山崎駅の駅前にいまも茶室、妙喜庵『待庵』は国宝として残っている。

あなたがいま飲んでいるシングルモルトウイスキー山崎。これはかつて利休が茶を点てた水と同じ水質から生まれたものだ。


侘び茶の水の解明。

米澤岳志氏。彼は山崎蒸溜所の丘の上にある技術開発センターでひたすらウイスキーに関する研究をおこなっている。肩書きは商品技術部課長。非常に小型の発酵槽やポットスチルのある実験工房や、1日1樽分だけの原酒を蒸溜できるパイロット蒸溜所といった場所で毎日研究にあけくれている。

米澤氏にはじめて出会った場所は山崎蒸溜所ではない。スコットランドはエディンバラだった。4年ほど前のことで彼は世界でも珍しい醸造、蒸溜の研究機関を持つヘリオット・ワット大学に研究生として留学していた。

私はヘリオット・ワット大学の研究所長のグラハム・スチュアート教授を取材するために訪れたのだが、そこで偶然にも彼と出会い、何日か後に別の場所で再び出会い、夜を徹して飲んだ。

米澤氏は一晩中ウイスキーについて語ってくれた。これほど熱く語る男ははじめてだったし、とても愉しく勉強になる話ばかりで時間を忘れた。面白い男だとも思った。天才だとも思った。

その彼がいま山崎で、『水の記憶』の解明という難しい研究をつづけている。時間というものを超越した、終わりのない研究のように私には感じられる。(次頁へつづく)
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