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GTASA発売 ゲーム規制を考える(3ページ目)

2007年1月25日、延期を繰り返し、規制による仕様変更を行ったGTASAが発売されました。そのきっかけとも言える神奈川県のゲーム規制問題について整理し、ゲーム規制のあり方を考えてみたいと思います。

田下 広夢

執筆者:田下 広夢

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現状の認識も把握も足りなかった審議方法

GTA3というタイトルが有害図書類に指定されることに対する是非はともかくとして、この件において重要なのは審議の方法です。全国で初のゲームソフトに対する有害図書類の規制となれば報道でも大きく取り上げられ、今後のひとつの基準とものなり得る決定です。青少年の健全な育成はもちろん、ことはゲームと言う産業、文化、あるいは憲法上の表現の自由にまで及ぶ問題であることは言うまでもありません。

そういったことを考えた場合に、今回の審議方法にはどうしても疑問が残ります。まずGTA3だけを取り上げる理由が見つかりません。また、審議をする人は実際にプレイせず、たった10分の任意に編集されたビデオ映像を見ることでゲームの内容を把握することができると言えるでしょうか? こういったゲームは数十時間をかけてプレイするものですが、それをたった10分の他人がプレイしたもので判断できるとは到底考えられません。そして、1時間の審議での決定。販売元のカプコン、あるいはゲームの自主規制を行っている業界団体であるコンピューターエンターテイメント協会(以下CESA)などから話を聞く機会も無いスピード判断です。

【関連サイト】
CESA//社団法人コンピューターエンターテイメント協会
コンピュータエンターテインメントレーティング機構//HOME
『GTA III』有害図書指定についてカプコンが神奈川県知事に再考求める(ファミ通.com)

こういった審議の疑問点は、そのまま今回の決定に対する疑問点とも重なります。例えば、有害図書類に指定したのは2005年の5月ですが、発売されたのは約1年半も前の2003年9月です。1年半もの間放置しておいて、今更1時間の審議でスピード決定を行う必要が本当にあったのでしょうか? 同シリーズは2004年5月20日にグランド・セフト・オート・バイスシティという続編を日本で発売しています。この状況でGTA3だけが有害図書類に指定されると言うのは不自然であり、現状の把握と調査が不足していることを明確に示唆しているのではないでしょうか? 

神奈川県知事 松沢成文氏のブログに批判が集中

松沢知事の図
多くの報道機関が関心を寄せ、ブログ以外でも松沢知事は度々説明を求められました。
神奈川県知事である松沢成文氏は、2005年7月7日にGTA3の有害図書類指定にたいする考えを、自らのブログで公開しました。そこで松沢知事は、規制にあたって行った審査方法とその基準、規制が実効性、そしてゲームが実際に青少年に悪影響を与えるかなどについて書いています。

このブログに批判が集中、1200件を超えるコメントがつきました。批判の多くは規制の基準の曖昧さや、ゲームが悪影響を与えるという松沢知事の説明に対するものでした。松沢知事はブログの中で「残虐性の高いゲームが犯罪を誘発するかどうかの科学的証明は、まだ行われていないことは事実です。」とした上で、「先日の東京で発生した両親殺害事件で、加害少年が今回指定したゲームソフトの愛好者であったという報道もあります。」と書いてその因果関係を主張しています。しかし犯人の少年がGTAをプレイしていたというからといって、GTA3の愛好者だから両親を殺害したとは断定できません。後者についての証明は全くされていないことなどから、ゲームと犯罪を安易に結びつけることに対する意見が多数寄せられました。


2006年1月25日、カプコンからPS2用ソフトとしてGTASAが発売されました。アメリカでは2004年10月26日に発売され、日本でも元々は2005年秋発売を予定していたのですが、GTA3の規制の影響などの理由からか、発売が延期されていました。

カプコンは自社で開発し、アメリカで先行して発売していたデッドライジングに関しても日本での発売に際して大幅な内容変更をするなど、ゲームの規制問題についてはかなり慎重な姿勢を見せています。松沢知事がブログの中でGTA3の有害図書類指定に関して「リーディングケースとしての抑止効果は高い」と言っていますが、それがある程度証明されたようにも思います。しかし、一方で十分な議論が行われないまま、GTA3のケースが見せしめのような形になってゲームメーカーが消極的になるという状況にはユーザーから不満も出ています。

時間をかけた現状調査と認識、そしてそこを土台とした十分な議論の欠如こそが、今回の一番の問題点ではないかと私は思います。青少年の健全な育成と、ゲーム業界の発展の両方を実現するべく、今後も議論を続けていかなければいけない課題です。

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