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第47回世界卓球選手権パリ大会見聞録 パリからの手紙 第6便(3ページ目)

「ベルシーに集結した中国人の目には、まぎれもなく『王楠の日』と映ったはずです」──世界卓球選手権パリ大会を見た「僕」が、手紙スタイルで綴る連載「パリからの手紙」の6回目です。

執筆者:壁谷 卓

名誉、金、人気、知名度……現実世界の欲望を満たしたように見える彼女が、3連覇をしなければならない必要があるのだろうか。そんな疑問があった僕には、彼女が身を削るようにして頂点を目指す「内的必然性」を見つけられなかったのです。卓球史に輝く記録をつくりたいという欲望はあったかもしれません。しかし、今大会の彼女のプレーは、素人の僕ですら「冴えない」と思うような内容です。「普通」のプレーをしたとき、金メダルに最も近い選手が自分でないことは彼女自身が一番よくわかっていたはずです。そして優勝以外には自分が賞賛されることはないことも知り抜いていたはずなのです。にもかかわらず、彼女は出てきた。それはなぜなのか──。

その答えを、張怡寧との決勝に見つけたように思えました。

世界選手権での張怡寧は99年2位、01年3位。いずれも先輩の王楠に敗れています。しかし、前回大会では「命令」が下ったのか、投げやりにも見えるプレー内容で、真剣勝負をさせてもらえなかったように感じられました。そのうっぷんを晴らすかのように、釜山アジア競技大会の決勝では王楠を撃破したのです。その後、プロツアーの年間王者を決めるグランドファイナルに優勝し、今年1月から世界ランキング1位の座にあります。

張怡寧は、今大会でも対戦相手を粉砕するかのような戦いぶりで勝ち進み、今日の準決勝では、シドニー・オリンピック銀メダリストの李菊と同士討ちとなりました。李菊は大阪大会のあとに引退を表明したのですが、再び表舞台へ戻ってきた選手です。この「復活」を中国卓球協会が認めたことが驚きです。ナショナルチームから外れた中国の選手は、一線で卓球を続けたいのであれば他国へ移るしかなかったのですが、李菊のような選手起用が可能になったところにも、中国の変貌を見て取ることができるように思えます。

張怡寧はしかし、「いまが旬」の実力を見せつけ、李菊を圧倒しました。これにより、なんと1回戦から準決勝までの全試合を4-0のストレートで勝ち、決勝に進出するという離れ業を成し遂げたのです。「普通」のプレーをしたとき、最も金メダルに近いのは誰なのか。その答えは誰の目にも明らかでした。そう、「普通」のプレーができれば……。

王楠の戦術が巧みなのか、張怡寧の切れがいまひとつなのか。たぶんその両方なのでしょう。準決勝までとは違い、王楠の持ち味であるタイミングの早いカウンターが蘇り、張怡寧は鋭利な刃のようなキレのあるボールを発揮できないように感じられます。もっとも「普通」のプレーでは張怡寧に勝ち目のない王楠は、入ろうが入るまいが、カウンターにかけるしかないのです。そういう意味では、実力ナンバーワンの相手に誘発された作戦といえますし、同時に、本調子でなかったことによって、ためらわず、愚直に、試合開始から捨て身の作戦を敢行できたともいえます。

それでも王楠が2セットをとった時点ではまだ「互角」と思えたのですが、3セット目も奪って王手をかけると、さすがに会場がざわざわとしました。非の打ちどころのないプレーで勝ちあがってきた張怡寧が、一方的に封じ込まれているのです。さすがに張怡寧も意地を見せ、守りに入った王楠を大きなラリー戦に引きずり込み、3-3のフルセットまで追い上げました。しかし、そこで力を使い果たしたのか、最終セットは王楠が押し切りました。王楠が3連覇を達成したのです。
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