分譲マンションの区分所有者は必ず知っておきたい、修繕積立金の現状とは

分譲マンションに居住していれば、必ずやってくる大規模修繕工事。今、その大規模修繕工事に必要な資金が不足しているマンションが急増し、大きな問題になっています。そこで今回は、修繕積立金の積立方法や大規模修繕工事への備えについて、マンション管理コンサルタントの土屋さんに聞きました。

提供:住宅金融支援機構

お話をうかがった方

土屋 輝之

さくら事務所 マンション管理コンサルタント:土屋 輝之

2003年さくら事務所に参画。不動産仲介から新築マンション販売センター長を経る間に、不動産売買及び 運用コンサルティング、マンション管理組合の運営コンサルティングなどを幅広く長年にわたって経験。 不動産、建築関連資格も数多く保持し、深い知識と経験を織り込んだコンサルティングで支持される不動産売買とマンション管理のスペシャリスト。(さくら事務所:https://www.sakurajimusyo.com/)

分譲マンションの1/3が修繕積立金不足に

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一般的なマンションでは、十数年ごとに実施されている大規模修繕工事。2018年の国土交通省の調査によると、この工事の際に必要となる修繕積立金が計画に対して「不足している」と答えたマンションが、全体の34.8%に達しています。

土屋さん(以下敬称略)「現在は、この調査の数字よりさらに増えているはずです。大きな原因として挙げられるのは、資材や人件費などの価格上昇です。新築分譲時の長期修繕計画では足りていたはずの修繕積立金が、修繕費用の高騰によって不足に陥った……ということも多くなっています。

また、当初の計画では、段階的に修繕積立金の額を引き上げていく予定だったものが、計画通りの引上げを行えなかったケースも多く見られます。さらに、コロナ禍による住民の収入減や、築年数の古いマンションでは住民が高齢化して年金生活になるなど、積立金の回収が滞ることも原因のひとつです」

国もこの現状を問題視しており、有識者やマンション管理関係団体とともに『今後のマンション政策のあり方に関する検討会』を開催し、「マンションの長寿命化の推進」や「修繕積立金の安定的な確保」など、マンションで起こる様々な課題について議論を重ね、施策の方向性をとりまとめた内容を公表しています。

土屋「2022年から、国による『管理計画認定制度』と、マンション管理業協会による『マンション管理適正評価制度』が始まったこともポイントです。これらは、マンションの修繕積立金や、長期修繕計画の状況を確認して、認定・評価してもらえる制度です。評価・認定を受けることで、マンションの資産価値を高めることができます。管理組合でも、修繕積立金の整備が不可欠になっており、不足があれば早急な対応が求められます」

※国土交通省実施「平成30年度マンション総合調査結果報告書」より

積立額を決める長期修繕計画は定期的に見直す

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区分所有者が支払う修繕積立金は、長期修繕計画に基づいて金額が決まるもの。ですが、この計画自体に問題が潜んでいることも。

土屋「長期修繕計画は非常に重要であるにも関わらず、計画を立てる側に資格や経験などの基準がありません。計画書を詳しく見ると、必要な設備が抜けていたり、存在しない設備が計上されていたり、現実とかけ離れていることもあります。

また、一般的に長期修繕計画期間は30年程度が多いのですが、実際には新築から30年は大きな修繕が必要な状況はあまり起こりません。一般に、31年目以降には給排水管やエレベーターの取り替えなど、費用が大きな工事を行う必要があります。このため、計画期間は40年以上と長めにすることをお勧めします」

長期修繕計画は、作りっぱなしではなく、一定期間ごとに見直しを行っていくことも重要です。5~7年おきに長期修繕計画を見直すマンションが多いと聞きますが、それでは対策として不十分でしょうか。

土屋「ここ数年の急激な修繕費高騰などに対応するには、1~2年に1回は計画を見直して、最新の状況を知っておくべきです。そこで役立つのが、住宅金融支援機構の『マンションライフサイクルシミュレーション』です」

マンションライフサイクルシミュレーション

マンションライフサイクルシミュレーション』は、ウェブ上でマンションの修繕時期や、そのときにかかる費用などをシミュレーションできるサービスです。

土屋「長期修繕計画の見直しといっても、知識がない方はどうすればいいかわからないもの。このサービスは初心者でも操作しやすく、業者に依頼することなく必要な費用の目安が把握できます。毎年のデータ更新によって、実際の費用と乖離が出ないよう物価調整がされているなど、リアルタイムのデータであることも大きなメリットです」

サービスは無料なので、理事会などで気軽に活用できます。シミュレーションした費用と手元にある修繕積立金を照らし合わせれば、今後の積立を増額すべきかなどの検討材料になります。

土屋「実際に大規模修繕工事をするときには、現行の管理会社1社だけに見積もりを依頼するマンションが多いのではないでしょうか。マンションライフサイクルシミュレーションを利用すれば、その見積金額の妥当性を、おおまかに確認することもできます。小規模なマンションの場合、相見積もりを取ろうとしても手間と人材不足がネックになりますが、そんなときもこのシミュレーションが活躍してくれるでしょう」

「マンションライフサイクルシミュレーション」の詳細はコチラ >>

リフォーム融資で必要な工事を確実に実施

大規模修繕工事にあたり、どうしても修繕積立金が足りないという事態になったらどうすればよいのでしょうか。

土屋「築年数の経ったマンションはもちろんですが、新築でまだ修繕積立金がプールできていない時期に、外壁タイルの剥落などの不具合が起こり、工事が必要になることもあります。そんなときは、リフォーム融資を利用することもひとつの方法です」

住宅金融支援機構の『マンション共有部分リフォーム融資』は、全期間固定金利で担保不要です。共用部分のリフォーム工事・耐震改修工事などが対象で、区分所有者が負担する一時金への融資も可能です。

マンション共有部分リフォーム融資

土屋「修繕工事で特にコストがかかるのが”足場を組む”こと。もし足場を組む工事を実施する場合は、まとめて実施してしまうのが合理的です。手元の資金が足りない場合でも、必要な修繕であれば先延ばしにせず、融資を受けて適切な工事をするべきです」

「マンション共用部分リフォーム融資」の詳細はコチラ >>

土屋「また、せっかく積み立てた修繕積立金は、安定した運用で増やしておきたいもの。その代表格と言えるのが【マンションすまい・る債】です」

【マンションすまい・る債】は、マンション管理組合を対象とした利付き10年債です。この債券を利用していると『マンション共有部分リフォーム融資』の金利が引き下げられるというところもポイントです。

【マンションすまい・る債】

土屋「国の認可を受けた債券ですから、安心感が違います。様々な管理組合の声を聞くとだいぶ普及しており、意識の高い組合ほど上手に利用されているようです」

【マンションすまい・る債】の詳細はコチラ >>

修繕積立金の不足には、早期に真正面から向き合う

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修繕積立金の不足については、国も『今後のマンション政策のあり方に関する検討会』などで対策に力を入れており、テレビや新聞でも取り上げられているように、巷での関心も高いテーマとなっています。

土屋「それなのに、自分のマンションのこととなると、修繕積立金の増額につながるからと議論したがらないのが実情です。不安をそのままにして、問題を先延ばしにしていると、どんどん解決が難しくなってしまいます。

区分所有者の皆さんは、ぜひ真正面から、『マンションの修繕積立金がどうなっているか』に向き合ってほしいと思います。40年以上の長めの計画期間で長期修繕計画を客観的に見直し、修繕積立金の引き上げを検討したり、工事のタイミングで費用が不足しているようなら融資を検討する、心配がぬぐえなければ専門家に相談するなど、マンションを健全に保つ修繕を実施するための対応を心がけてください」

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