大規模修繕工事の資金が不足している……そんなときの対策は?

十数年に一度の周期で行われる、分譲マンションの大規模修繕工事。工事の資金が確保できないと、区分所有者の安心・快適な暮らしが損なわれます。資金不足に陥ってしまったときの対策や、コストダウンにつながる施策などを、マンション管理コンサルタントの土屋さんに聞きました。

提供:住宅金融支援機構

お話をうかがった方

土屋 輝之

さくら事務所 マンション管理コンサルタント:土屋 輝之

2003年さくら事務所に参画。不動産仲介から新築マンション販売センター長を経る間に、不動産売買及び 運用コンサルティング、マンション管理組合の運営コンサルティングなどを幅広く長年にわたって経験。 不動産、建築関連資格も数多く保持し、深い知識と経験を織り込んだコンサルティングで支持される不動産売買とマンション管理のスペシャリスト。

見た目では分からないマンションの老朽化とは?

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最近、テレビやインターネットのニュースなどでもよく取り上げられている老朽化したマンションのトラブル。適切な管理や修繕を行わないまま放置すると、最悪の場合、スラム化して住み続けることができなくなるなど、社会問題にもなっています。老朽化したマンションで、身近に起きるトラブルとしてはどんなものがあるのでしょうか。

土屋さん(以下敬称略)「生活する上で一番困るのは、水回りのトラブルかもしれません。例えば給排水管は、老朽化が目に見えてくるのが築後30~35年後と遅いのですが、いったん表面化すると赤水が出るなど健康面の問題も深刻になります。

古い構造のマンションで給排水管を新しいものに交換する場合、配管が下の階の天井に入り込んでいると、上下階で足並みを揃える必要があり相当金額もかさみます。トラブルが起きても資金が確保できず、応急処置のような形でしのいでいるケースも多いのが現状です」

建物の老朽化によるトラブルを防ぐ手段としては、一定期間ごとに行う「大規模修繕工事」があります。

土屋「定期的な建物の補修や塗装工事は、どの管理組合でも『やらなければいけない』という認識があるものです。

大規模修繕工事では、基本的にマンションの外壁に足場を組んで行う工事が中心になりますが、マンションによっては、先ほど例に挙げた給排水管など設備の修繕や、住民の利便性や今後の資産価値向上のための車椅子のスロープ設置、画像が写らない古いインターフォンの交換などをあわせて行うことも検討する必要があるでしょう」

大規模修繕工事はなぜ必要? 適切なタイミングは?

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分譲マンションでは、長期修繕計画をもとに、修繕積立金を資金として大規模修繕工事が行われます。そもそも、なぜこの工事が必要なのでしょうか。

土屋「主なものとして、10年ほどで屋上防水の保証期間が切れるため、防水性能を確保するための補修工事が必要となります。また、外壁の傷みを修繕して、剥落事故などを防ぎ安全性を担保したり、塗装をし直して外観の美しさを保つという目的もあります。

修繕工事で非常にコストがかかるのが『足場を組む』こと。足場を必要とする工事は、まとめて実施してしまえば合理的で、費用面や時間のメリットが生まれます」

これまでの大規模修繕工事は、十数年ごとに行うのが一般的でしたが、最近では周期を長くしているマンションもあるとのことです。

土屋「工事のタイミングは、状態に関わらず決められた年数で行う定周期保全と、状態を点検して適した時期に行う状態監視保全という2つがあります。部材の質や施工の技術が向上し、防水の保証なども長くなっているので、通常より長い18年周期で大規模修繕を行うようなマンションも増えています。

国土交通省による長期修繕計画のガイドラインでも、以前は12年周期だったものが、2021年に12~15年周期へと変更されました。状況に応じて足場が不要な工事は後回しにするなど、コストダウンの方法も考えられます」

資金不足となってしまうマンションのお話もありましたが、大規模修繕の費用負担を軽減するために、区分所有者が各自でできることはありますか?

土屋「日々の暮らしの中で、ぜひご自身のマンションのウイークポイントを観察してみてください。壁のひび割れや塗装の剥離、屋根やバルコニーに水がたまっているところなど、どのマンションにも局所的なトラブルがあるはず。日当たりや風向きの違いなどにより、マンションの中でもそれぞれで劣化するスピードが異なる場合もあるので、それらを見逃さずに観察・記録し、マンション管理組合や管理会社に報告・共有することが重要です。

そうした中で問題のあった場所は、例えば防汚塗料などを新築当初よりグレードアップした材料で補修したり、細かい対応で劣化を防ぐメンテナンスをしておけば、大規模修繕の周期が延ばしやすくなるでしょう。60年間で1回大規模修繕工事を減らすことができれば、億単位の費用がカットできることも珍しくありません」

大規模修繕工事の費用が足りないときの3つの対策

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大規模修繕工事に際し、これまで積み立ててきた修繕積立金だけでは足りず、十分な資金が確保できなくて困っている管理組合もあると聞きます。1回目の工事から、すでに資金不足というマンションも……。

土屋「正しく長期修繕計画を立てて、計画的に修繕積立金の増額を実施している管理組合は、基本的には資金不足に陥らないものです。しかし、そもそも計画の見立てが甘かったり、間違いがあるケースも見受けられます。

長期修繕計画は、おおむね5年での見直しが標準的ですが、人件費や工事費は毎年のようにアップしているのが現状です。資金がギリギリの場合は、計画通りの工事ができないことも。また、新築時にコンクリートの打設不良や、外壁タイルの浮きなどの瑕疵があるマンションは、1回目の工事から費用の負担が大きくなりがちです」

資金不足が判明したときの対処としては、こんな方法が考えられます。

(1)金融機関から借り入れをして、当初の計画通り工事を実施する。

(2)必要な資金がたまるまで、工事の実施時期を遅らせる。

(3)区分所有者から一時金を集め、不足分を補填して工事を実施する。

土屋「資金不足が想定されたら、修繕積立金の増額を先送りにせず、速やかに実施すべきです。(2)のように資金がたまるまで工事を遅らせるのは、建物の不具合が大きいとダメージが深刻化する危険性があります。

(1)は心理面でハードルが高く感じる方も多いのですが、低金利の時代であることを考えると、工事を先延ばしにするよりメリットが大きいと考えられます。融資で資金を確保して工事を実施できるよう、管理組合で検討をしてみるのも一案です」

資金不足の場合は『マンション共用部分リフォーム融資』を有効活用

資金不足で融資を受ける場合、候補として挙げられるのが住宅金融支援機構の『マンション共有部分リフォーム融資』です。共用部分のリフォーム工事や耐震改修工事などに利用でき、区分所有者が負担する一時金の融資を受けることもできます。

マンション共有部分リフォーム融資

土屋「全期間固定金利で担保も不要ですし、何より金利が安いのが魅力です。融資を受けるためには、管理規約など一定の条件がありますので、早めに相談して管理組合で体制を整えておきましょう」

「マンション共用部分リフォーム融資」の詳細はコチラ >>


土屋
「この『マンション共有部分リフォーム融資』と同じく住宅金融支援機構の【マンションすまい・る債】マンションライフサイクルシミュレーションを活用することもお勧めしたいです」

【マンションすまい・る債】

【マンションすまい・る債】は、マンション管理組合のための利付10年債です。国の認可を受けて発行されており、修繕積立金で購入できます。

土屋「【マンションすまい・る債】を利用していれば、『マンション共有部分リフォーム融資』の金利が引き下げられるという相乗効果もあります。これを活用して計画的に修繕費を積み立てている管理組合は、もともと経済的な意識が高い傾向があり、いざというときの不安は少ないかもしれませんね」

【マンションすまい・る債】の詳細はコチラ >>

マンションライフサイクルシミュレーション

マンションライフサイクルシミュレーション』は、修繕工事の時期や費用をウェブでシミュレーションできるサービスです。

土屋「このシミュレーションは、非常に精度が高いもの。自分のマンションの情報を入力するだけで、工事費の概算や修繕積立金の過不足などがわかります。無料で手軽にできるので、一度は確認してみることをお勧めします。将来的に積立金が不足するという結果が出たなら要注意として、しっかり対策を考えておきましょう」

「マンションライフサイクルシミュレーション」の詳細はコチラ >>

また、大前提として、大規模修繕の基本的な知識が不足していると、適切な工事の周期や費用の判断が難しくなってしまいます。

土屋「そんなときに参考になるのが、住宅金融支援機構が発行している『大規模修繕の手引き』です。一般の方向けに分かりやすく書かれていますし、管理組合の役員だけでなく、区分所有者もこれをベースに予習して、不明な点を管理会社や専門家に尋ねるのがいいでしょう」

「大規模修繕の手引き」の詳細はコチラ>>

正しい知識で、それぞれのマンションの状況に合った資金計画を

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長く安全に暮らすために、大規模修繕工事は不可欠なもの。問題なく工事を実施するために、マンションの管理組合や区分所有者は、どんな心がまえと準備をすればいいでしょうか。

土屋「適切な大規模修繕工事には、正しい知識が不可欠です。今回ご紹介したサービスなどをぜひ活用してみてください。万一、工事資金が不足してしまったときは、融資を受けるなど、先延ばしや対処療法ではない適切な対策が肝心になります。

また、大規模修繕工事は長いスパンで見ることも重要。区分所有者は日ごろからマンションのウイークポイントを気にかけ、管理組合は『状態監視保全』で工事周期の延長を検討するなど、マンションごとの実状に合った対策を立てましょう」