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ウィーン在住のトレーナーさんに聞く犬事情(4ページ目)

日本の犬事情も随分と変化を見せてきていますが、海外から学ぶことは多々あります。ウイーン在住のドッグトレーナーさんに、オーストリアの犬事情などお話を伺ってみました。そこから見えてくるものとは?

大塚 良重

執筆者:大塚 良重

犬ガイド

そちらから日本の犬環境をご覧になって感じることは?

公共ドッグゾーンで愛犬と散歩を楽しむ人達
ウイーン、プラータの森の中の公共ドッグゾーン。ウイーンで一番広いドッグゾーンだとか。日本のドッグランとはまったく違った雰囲気。

Eggiさん:
日本の都会では犬は生活しにくいだろうな、と感じました。犬の習性を理解しない社会では、あまりにも犬を無視した規制ばかりがあって、あれでは犬が可哀想……と思うことがあります。昔ながらの犬の飼い方(小さな場所に犬小屋があって、短い鎖に繋がれたままの生活)と、モダンな飼い方(必要以上に犬をかまい過ぎる、物質面だけが豊富で、犬の自然な要求を無視する飼い方)との差が激しすぎるとも感じました。どちらも、犬との共同生活に適しているとは思えませんけれど。

特に後者は、歴史ある、西洋の犬との共同生活の上辺だけが商品化されて、それがいつしか一人歩きを始めてしまい、肝心な“家庭犬との共同生活”における、大切な部分が伝わっていないせいかしら……とも感じました。

・自宅で犬のトイレを済ませてから、犬を散歩に連れて行く。
・自宅にいるのに、ケージに閉じ込める飼い方。
・まるで、生きたぬいぐるみを可愛がるような感覚で、犬に接する人が多そうに思えること。
・多頭飼いの多さ。
・捨て犬、迷子犬の多さ。
・遺伝性疾患の多さ。

これらは、私がまだ日本にいた頃には、見聞きしたことのないことばかりです。実は、これらの中には、ウイーンであれば犬保護法違反になりそうな内容も混じっているのですが……。

日本の飼い主さん達にアドバイスをお願いします

ドッグゾーン内でのワンシーン
プラータのドッグゾーンで、水飲み場に集まった犬達。「喧嘩もしないで、お互いに無視し合っていました」(Eggiさん)

Eggiさん
そうですね、まず、犬との共同生活の意味を見直して欲しいと思います。自分はただ、オモチャのように可愛らしい犬との生活に満足しているだけなのか……ただ、犬の従順さに淋しい心の隙間を埋めてもらいたいだけなのか……ただ、自己満足のために犬と生活しているだけなのか……ただ、犬を可愛がる自分の姿に、満足しているだけなのか……。

多分、誰しも初めは子犬の無邪気な可愛らしさに惹かれて、犬との共同生活に踏み切るのだろうと思います。そして、内心の淋しさを埋めたい、秘めた欲望があるのだろうと思います。私自身が、犬を好きな理由を考えあぐねていくと、そこに突き当たります。

確かに、犬達は私達犬好きの心を魅了してやみません。でも、犬には犬の気持があることは、忘れないで欲しいと思います。本当に犬を愛する気持があるのなら、犬の存在に依存して、自分勝手に満足せず、もっと犬達に自由な生活を与えてあげる努力をして欲しいと思います。

もし、自分の生活環境が犬の習性に合わないのならば、どんなに犬達を愛しいと感じても、犬のために共同生活を望まないようになって欲しいと思います。好きだから、今は我慢をする。これも、とても大切な心構えだと思います。この、愛情に裏付けされる心構えがあれば、無責任な態度は取れませんから。

また、犬の世界を正しく知るためには、カーミングシグナルは欠かせません。愛犬家の皆さんが、この犬達の発するシグナルを読めるようになれば、自ずと、犬達への接し方が変わってきます。そして、もし変わらないのであれば、その人は理論を丸暗記しただけで、大切な本質を理解していないのでしょう。

これからは心の豊かさを

ガイド:
Eggiさんがおっしゃるように、確かに物質的なものばかりが先行して、本質的なものが空回りしているような現実が、今の日本の犬社会にあることは否めないでしょう。犬を家族ととらえることはとても素晴らしいことです。

しかし、彼らは人間にはなれません。人間と特別な絆を築くことができるとしても、やはり犬という動物です。彼らは「私の物」ではなく、一緒に生活する仲間、パートナー。ならば、互いを尊重することも必要です。

これまでもここで何度か同じことを書いていますが、これからは、犬達を理解すること、愛しながらも“犬が犬でいられるよう”、肩肘を張らないつきあい方をしたいものですね。いつかは犬達が今よりもっと自然に社会に受け入れられる日が来ることを願って。



写真提供/Eggiさん

【プロフィール】
Eggiさん/ドッグトレーナー
1975年、ウイーンに渡る。現在の愛犬とパピーコースに参加したことがきっかけとなり、ドッグトレーナーの道へ。“犬という生き物を理解し、犬達から信頼される飼い主になって欲しい”という想いを胸に、ストレスをかけず、行動学を応用したトレーニング方法を指導し、飼い主さん達から厚い信頼を得ている。オーストリア使役犬協会に籍を置いた後、現在はPet dog trainers of Europe準会員。ウイーン飼い主免許試験の公認試験官でもある。

【関連サイト】
おしゃべりワンコの物思い(Eggiさんの豊富な経験と知識を生かし、犬との暮らし方をアドバイス)
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