暴力の車輪を回す、歪んだ社会構造
「例えば、『経済的暴力』について考えてみましょう」
女性が結婚して家庭に入ることで、どのように『経済的暴力』を受けるのかを、小島弁護士は説明してくれた。
1.結婚
2.出産
◆結婚当初は共働きを考えていたとしても、子供が何人も出来ると、なかなか続けていけなくなる。
3.夫の経済力に頼ることに
◆パート労働に転向するなどして収入格差が出来、夫に養われる、という形になる。
◆夫から「仕事をやめろ」と言われる女性も出てくる。
◆経済的な力が弱くなるので、「生活費を渡さない」という形で脅しを受けることも。
また、経済的に自立出来なくない状況にある専業主婦の妻に対しては、「離婚しても生活出来るわけがない」「慰謝料など渡すつもりはない」と、「離婚後の生活」をカサに横暴な態度を取る夫もいる。仕事を持つ女性の出産、育児などに対する社会的な取り組みの遅れが、女性を『経済的暴力』にさらしているとも言えるのではないだろうか。
「子供を利用した暴力にしても、同様です。『母子家庭差別があるのではないか』という不安や『子供の将来を左右してしまう』ことに対する不安を夫や周囲に指摘されることで、夫の暴力から逃げ出すという選択を阻まれるわけですから・・・」
つまり、子供がいても女性が安心して働ける社会、母子家庭への差別や不平等のない社会が実現すれば、社会の支えによって「暴力の車輪」を断ち切ることも不可能ではないはずだ。
「暴力から逃げ出せない女性は精神的に弱いとか、そういう決めつけは違う。個人的要因よりも、社会的な力関係や構造によるものの方が大きいと、私は考えています。暴力というのは、人を支配するための道具なんですよ。セクハラも同じ。職場の力関係がアンバランスだから発生するわけでしょう」
単純に「妻が心を入れ替えれば済む」という問題ではないのだ。例えば妻と夫が経済的に対等であったとしても、「(本来は男がそんなことをするべきではないのに、自分だけが)育児に協力させられている」という不満から、妻に暴力をふるうケースもあるのだ。そしてその暴力を支えているのは、男は育児をするべきではない」「男が家計を支え、女は男を支えるべき」という社会通念に他ならない。
小島弁護士は言う。
「個人の問題としてDVに取り組む、という視点も重要です。しかしその一方で、社会問題として認識する努力も忘れてはならないんです」
DVのお話は次のコラムに続きます。
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