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東京「枝線」紀行【4】西武・豊島線(3ページ目)

路線図を眺めていて気になるのが、本線からちょっとはみ出した「枝線」。用がなければ乗らないそんな「枝線」を、あなたの代わりにガイドが探訪します。シリーズ第4回は、西武鉄道・豊島線です。

執筆者:高橋 良算

練馬駅北口、昭和が終わった日の記憶

練馬駅
練馬駅北口にできた歩行者用デッキ。この下にはバスターミナルがある
そしてほどなく練馬駅に戻ってきた。日は暮れかけているが、せっかくだから豊島線の起点である練馬駅周辺もうろついてみようと思う。

実はこの駅前は思い出深いところでもあるのだ。何しろ、昭和64年1月7日、すなわち昭和最後の日、私はここにいた。

練馬駅の北側には、練馬文化センターという施設がある。当時高校生で吹奏楽部に所属していた私はその日、アンサンブルコンテストというものに出場するためにこのホールに来ていたのだった。曇り空の、とても寒い日だった。

当時はまだ地上駅だったはずだが、その様子はほとんど記憶にない。しかし、「練馬銀座」というアーチがかかった北口付近の商店街にはなんとなく見覚えがある。

そういえばあの日、この商店街の中にあった中華料理店で、部活の仲間たちと食事したことを思い出した。それは古びた佇まいの店で、味などはまったく覚えていないが、店内のテレビでは、昭和の終焉を伝える特番が流れていた。

たしか駅のすぐそばだったはずなのだが、それらしい店はない。真新しいマンションができていて、そのあたりだったかもしれないと、近くにあった昔ながらの洋品店に入り、中にいた店主に尋ねた。しかし「あったにはあったけど、もう30年くらい前じゃないかねえ」と、話がかみあわない。

もしその店を見つけたらチャーハンでも食べて帰ろうかと思ったのだが、店の名前もわからないのだから仕方がない。

練馬駅北口の商店街
昔の面影を残す商店街は「練馬銀座」。木造の店舗もあった

ふらふらと歩いていると、商店街の裏に寺があった。その寺のものらしい掲示板には、こんな句を記した紙がポツンと貼ってある。


 人生一生 酒一升 あるかと思えば もう空か


まるで、今日私がここへ来るのを知っていたかのような啓示ではないか。

まだまだあると思っていた人生も、あの日から確実に20年分減ってしまっているわけだ。その間に、一体どれだけのことができただろうかと、神妙な気分でしばし立ちつくしていると、くしゃみが出た。

どうも背筋がゾクゾクするようだ。寒い中歩いたりしたのでカゼをひいたのかもしれない。さあ帰ろう。酒ビンが空にならないうちに。



東京「枝線」紀行~通勤電車の横道へ』は、シリーズでお届けします。

◎これまでの記事はこちら
東京「枝線」紀行【1】東武鉄道・大師線
東京「枝線」紀行【2】東京メトロ千代田線・北綾瀬支線
東京「枝線」紀行【3】京成電鉄・金町線



[関連サイト]
練馬駅・豊島園駅付近の空中写真(昭和49年撮影)
国土交通省・国土画像情報より。画像の中央付近に豊島園があり、豊島園駅には列車が停まっている。カーブを描く豊島線もよくわかる。西武池袋線はまだ高架化前で、練馬駅(画像右下)も地上にある。練馬駅の北側には、後に練馬文化センターが建つ広い空地が見える。

としまえん 公式ホームページ
豊島園駅前にある遊園地。

ユナイテッド・シネマ としまえん
豊島園駅前にある映画館。
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