「東京から北海道へ行く」というと、普通は飛行機で行くと思うらしい。そういう人に飛行機では行かないというと、もう他の交通手段は思いつかないようで、多くの場合困惑の表情を浮かべる。
寝台特急「北斗星」や「カシオペア」なら、「列車の旅」というイメージもあってまだいいのかもしれないが、新幹線と特急列車を乗り継いで行く、というのでさえ、一般にはあまり受け入れられないようだ。だから、とてもではないが普通列車を乗り継いで北海道へ行くなどと大きな声では言えない。
だが今回手にしている切符は、基本的に普通列車しか乗れない「北海道&東日本パス」である。
連続した5日間、JR北海道とJR東日本エリア、一部の第三セクター鉄道の普通列車が乗り放題で1万円。そのほか、青森~札幌間急行「はまなす」の普通車自由席にも乗ることができる。
1日あたりに換算すれば、格安切符の代表格である「青春18きっぷ」を300円も下回る。東京から函館までわずか2,000円で行くことも可能な、破格の切符だ。
北海道&東日本パスを使って札幌へ!
東北本線をひたすら北上するルート
乗り継ぎの目的地は札幌 |
しかし、練馬にある自宅の最寄駅を朝出発して、その日のうちに普通列車だけで青森駅に到達し、22時45分発の札幌行急行「はまなす」に乗り継ぐとなると、東北本線を北上する以外に方法はない。
ただ、このルートで旅するにあたって、実は気が進まないことがある。
その一つ目は、乗り換えが多いということだ。
東北本線の普通列車は細切れの区間に分断されていて、直通する列車は皆無である。今回のスケジュールでは、上野~青森間で、実に11本の列車を乗り継ぐ。
盛岡~八戸間にいたっては、東北新幹線の並行在来線として線路自体がJRの経営から切り離され、線路はつながっているものの、すでに東北本線ではない。ただ、幸いなことに「北海道&東日本パス」は、このJRでない区間にも乗ってよいことになっている。
乗り換えが多いと、その度に荷物を持ってホームを移動しなければならないから億劫だ。さらに、いちいち座れるかどうかを心配しなければならないのも精神衛生上よろしくない。
座れない列車が続けば、数時間も立って移動しなければならなくなる。いくら鉄道が好きだといっても、さすがにそれは避けたい。
気が進まない二つ目は、車両の座席の問題である。
一般に、「のんびり各駅停車の旅」という時のイメージは、4人向かい合わせで座る「ボックスシート」に座り、駅弁をほお張っている姿だったりするだろう。
ところが東北本線は、この「ボックスシート」を備えた車両の割合が低い。多くの車両は「ロングシート」、つまり通勤電車のような座席なのだ。あれに何時間も座っているのは苦痛でしかない。座るも地獄、立つも地獄とはこのことだ。
それでも空いていればまだよいが、混雑してくるともう各駅停車の旅どころではない。前に人が立てば景色はまったく見えないし、左右に人が座れば駅弁など開く気にならない。誰も通勤電車の中で食事をしようとは思わないだろう。以前、せっかく買った駅弁を一日中抱えていたこともある。
でも、そんなことは承知の上で、あえてこの旅を実行しようと思う。
東北本線の旅をつまらなくしておきながら、「北海道&東日本パス」みたいな格安の切符を発売するなんて、鉄道会社からの挑戦状のようにも思える。
それならば、なおさら鉄道旅行好きとしては血が騒ぐというものだ。受けて立とうではないか。
もっとも、この切符を選ぶ時点で、最初から勝負はついているのかもしれなかったけれど。
いよいよ、札幌へ向けて1,100kmの旅が始まる…… >>