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東京「枝線」紀行【3】京成・金町線(3ページ目)

路線図を眺めていて気になるのが、本線からちょっとはみ出した「枝線」。用がなければ乗らないそんな「枝線」を、あなたの代わりにガイドが探訪します。シリーズ第3回は、京成電鉄・金町線です。

執筆者:高橋 良算

唯一の途中駅、柴又で下車

わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です
帝釈天で産湯を使い、姓は車、名は寅次郎
人呼んでフーテンの寅と発します

金町線に乗ったら、この柴又で途中下車しないわけにはいかない。もっとも、途中駅は一つしかないから、金町線で途中下車するなら柴又しかないともいえる。

柴又駅
おなじみのあの人が迎えてくれる柴又駅
屋根に瓦をのせた駅舎を出ると、「さくら」「柴又屋」なんていう出来過ぎた名前の店が並び、駅前の広場には寅次郎が立っている。皆その前で次々に記念写真を撮っているけれど、寅さんが今から旅に出るところなのか、帰ってきたところなのかは判然としない。

駅前の路地を曲がるとすぐ、帝釈天の参道が現れる。この瞬間、「男はつらいよ」ファンなら興奮を覚えずにはいられない。映画の中で何度も映し出されたあの街並みが目の前にあるのだ。参道入口の前を関所のように横切るバス通りの信号が、やけに長く感じる。

帝釈天参道
懐かしい雰囲気の店が軒を連ねる
何十年も続いた国民的映画の舞台となったところだから、観光客に対して少々媚売る気配がないこともない。他の観光地で、少しでもそのような素振りを見せられたら興ざめしてしまうのだが、しかしここは聖地である。そんなことは不思議と気にならない。それどころか、いつの間にか草だんごまでほお張っているではないか。これだからファンというものは大事にしなければいけない。


帝釈天そして江戸川、映画で見た風景

帝釈天
帝釈天の落ち着いた佇まいに心和む
参道の突きあたりが帝釈天で、正式には経栄山題経寺という。取り急ぎ境内をひと回りだけしてまた後で寄ることにし、「寅さん記念館」へ向かう。館内には帝釈人車軌道のジオラマ展示もあるようなので見たかったのだが、既に閉館してひっそりとしていた。

まあまたいつでも来られるからと気をとり直し、江戸川の土手へ上がる。遠くの鉄橋を、北総線の電車が千葉県へ渡っていくのが見えた。すぐそばに「矢切の渡し」の発着場があり、対岸の矢切とを小さな手こぎ船が結んでいる。片道100円。そういえば、寅次郎はこの渡船で柴又に帰ってくることも多い。乗ってみたかったが、こちらも店仕舞いしていた。

江戸川
江戸川の河川敷は川が見えないほど広かった
ところで、映画の雰囲気からすると、柴又というところは古くからの下町のように思ってしまうが、このあたりはつい30年くらい前まで、農地が広がる農村だったそうだ。たしかにこうして歩いてみると、比較的新しい住宅が並んでいて、根津や深川といったいわゆる下町とは趣が異なっている。

映画というのはうまく撮るもので、帝釈天一帯が門前町であることは確かだが、柴又=下町というイメージ自体は、多分にその影響のようだ。もっとも、初めて来たのだし短時間に町内の一部をざっと一周しただけだから、偉そうなことは言えない。

まあそんなことを考えながら、もう一度帝釈天へ戻る。やはり落ちついたいいお寺さんである。お賽銭を50円奮発して手を合わせた後、調子に乗っておみくじを引くと「第四十六 凶」。よせばいいのに。西新井大師での反省がまったく活かされていない。

寅次郎だって、旅先からの手紙にこう記す。

思い起こせば恥ずかしきことの数々
今はただ後悔と反省の日々を過ごしております……


柴又駅へ戻り、そろそろ枝線の旅を再開 >>
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