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歴史の香り漂う神奈川の木造駅舎紀行(3ページ目)

湘南というと神奈川県南部の相模湾岸一帯を指しますが、そのさらに西寄りの地域、いわゆる西湘地域には、味わい深い木造駅舎がいくつか存在します。今回はその中から際立った3つの駅舎をご紹介しましょう。

執筆者:高橋 良算

海を見下ろす高台に佇むもの言わぬ駅舎
根府川駅

根府川駅舎
相模灘を背にすっくと建つ根府川駅舎
早川駅からいくつかのトンネルを抜け、海沿いの眺めのよいところを少し走ると根府川駅に着く。根府川は「ねぶかわ」と読み、「か」は濁らない。知らないと案外読み違うようだ。

根府川駅といえば、何といっても駅やホームから望む相模灘である。海岸から急斜面を上がった高台にあるため、眺望がすこぶるよい。関東地方でもっとも海の眺めのよい駅といえば、間違いなくこの根府川駅がその一つに挙げられるだろう。

しかしその眺望のよい急斜面の立地が災いして、悲しい出来事に巻き込まれたこともある。1923(大正12)年9月1日、相模湾を震源とした関東地震の時だ。

根府川駅舎
屈指の眺望を誇る立地が悲劇を生んだ
このあたりはもっとも震源に近いところで、震度7という凄まじい揺れが襲ったはずだが、その直後、付近一帯で大規模な山崩れが発生した。

根府川駅の上部でも地滑りが起き、ちょうど停車していた7両編成の列車もろとも、駅は一気に海まで押し流されてしまったのである。そこへさらに追い討ちをかけるように、今度は海からの大津波が襲いかかった。

この一連の災害は、駅と列車内の乗客百数十名(諸説あり)の命が失われる惨事となった。根府川駅は、熱海線(当時)の駅として震災前年の12月に開業したばかりであった。わずか10ヶ月ほどで消えてしまった駅舎のかわりに、1924(大正13)年、現在の木造駅舎が建てられた。駅舎の脇には、犠牲者を弔う小さな慰霊碑がある。

流されたプラットホームの石積は今も海中に眠っていて、付近でスキューバダイビングをするとそれを見ることができるという。そのためかどうかわからないが、現在の根府川駅には1番線がない。

根府川駅
今日も駅舎は黙々と乗客を迎える
その地滑り斜面のさらに上に、巨額の公費投入が議論を呼んだリゾート施設、現在の「ヒルトン小田原リゾート&スパ」がある。列車の時刻に合わせて送迎バスがやってきて、つかの間の賑わいを見せる。もっとも、客たちが足下の慰霊碑に気付くことはないようだった。

時代は変わってもその眺めは変わらない。悲しい歴史を秘めた駅舎は、今日ももの言わず海を背に佇んでいる。



[駅データ]
根府川(ねぶかわ)駅/JR東日本・東海道本線
所在地:神奈川県小田原市
開業日:1922(大正11)年12月21日
地図:Yahoo!地図情報

[関連サイト]
関東大地震の跡と痕を訪ねて
根府川の山津波
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