インクをたっぷり出せるコーン型と、細い文字が書きやすいパイプ型の2つのチップのいいとこ取りをしたペン先は、細い文字が滑らかに書けるというその強みから、その後、2019年には「フリクションポイントノック04」、2024年に「フリクションシナジーノック」にも搭載されています。
実際に、シナジーチップを使った0.3、0.4mmといった極細のボールペンを使ってみると、ペン先が紙に当たったり、カリカリした感触になることなく滑らかに書けます。インクフロー(ペン先から紙へと流れるインクの量や勢い)がいいおかげか、くっきりした文字が書けるので、細字でも読みやすいのも魅力です。
そのシナジーチップを使った顔料ゲルインキボールペンを、学生をメインターゲットに、1本165円(税込)という低価格で2025年12月24日に発売するのが、「Juice+(ジュース プラス)」です。同じシナジーチップを使った顔料ゲルインキボールペン「ジュースアップ」が1本220円(税込)ですから、かなり買いやすい価格になったと言えます。
シナジーチップを学生層に届けるために
「シナジーチップを初めて製品化した『ジュースアップ』が、来年(2026年)8月に10周年を迎えます。そのジュースアップの発売から5年ほどたった頃に、シナジーチップをもっと多くの方に知っていただきたい、使っていただきたいという思いから、『ジュース プラス』の開発が始まりました。5年かかってようやく発売にこぎ着けた商品なんです」と、「ジュース プラス」の企画を立ち上げた株式会社パイロットコーポレーション筆記具企画第一課の栗原優希さん。「ジュースアップ」は文具好きのユーザーを中心に好評だったものの、ゲルインキボールペンの主要ユーザーである学生層など、より幅広い層に向けた製品を出す必要があるということから、「ジュース プラス」の企画が始まったそうです。開発にあたっては、学生をターゲットにアンケートを取るなど市場調査を進め、学生ならではのニーズに合ったシナジーチップ搭載ゲルインキボールペンの開発に取り組みました。
アンケートでは、ボールペンを購入する時に重視するポイントの1位が「書き心地」、2位「価格」、3位が「握りやすさ」だったそうです。
書き心地については、「書き始めがかすれる」「急いで書くとムラになる」「筆圧が強いとペン先が引っ掛かる」「細かいところに書くと文字がつぶれる」といった不満点が挙がり、価格は圧倒的に「100円台の製品から選ぶ」という実情が分かりました。 「アンケート結果からも、100円台でシナジーチップを搭載した顔料ゲルインキのボールペンが作れれば、広く学生に使ってもらえるかもしれないことは明確でした。しかし、難しかったのは100円台でシナジーチップを搭載することでした」と栗原さん。
コストはもちろん、学生が手に取りたい、使いたいと思うペンを作るためには、さまざまな要素を検討する必要があります。
「インキの色を決めるのにも時間はかかりますが、決めた後、品質に問題がないかテストする必要がありますし、デザインや形を決めても、それをどのように生産していくかも考えなければなりません。そうしたことを1つずつ詰めていくと、どうしても5年ほどかかってしまうんです」(栗原さん)
製品化に向けてずっと奔走していたため、5年という期間はあっという間に過ぎてしまったのだそうです。
“自分で選んだ”と思ってもらえるものを入れたい
「ジュース プラス」はボール径は0.4mm、インキ色はスタンダードカラーとしてブラック、レッド、ブルー、オレンジの4色、ニュアンスカラーとしてサクラ、ミント、ネモフィラ、ラベンダーの4色の計8色となっています。「今回、スタンダードカラーの4色は『ジュースアップ』と同じものを使っています。リフィルも『ジュースアップ』と同じです。一方、ニュアンスカラーの4色は、今回のための新色となっています。色は、アンケート結果などを参考に、学生がノートを取る時などに使いやすい色を重視して選んでいきました。その上で、学生に“こだわりを持って選んだ”と愛着を持ってもらえるよう、一般的なピンクやバイオレットではなく、黄味や青味を加えて細かな色調整を行い、ありきたりではない、おしゃれな印象の色を目指しました」と栗原さん。
だからこそ「ニュアンスカラー」というネーミングになっているのでしょう。
「グミっぽいかわいさですね」
軸のデザインも165円のペンとは思えないほど、細部にわたって気を配られています。例えば、栗原さんが「最も時間がかかった」と言う、クリップからノックボタン周りの透明パーツの部分です。「ペン上部にある二層構造になったインキ色の表示パーツも、試作段階ではなかなかキレイに組み合わさらなくて苦労しました。どうしたらうまく組み合わさるのか、一方できっちりはまる構造ができたとしても強度は問題ないのかなど、試行錯誤を繰り返しました。また、ペン軸に刻印が入っているのですが、あまり深くすると強度に問題が出てきてしまいますが、かといって浅過ぎると刻印が見えなくなってしまいます」と栗原さん。
クリップから上というのは、「ペンの顔」と言える部分です。売場に並んでいる時に見えるのはその部分ですから、そこが魅力的でなければ手に取ってもらう機会が減ってしまいます。また、軸色やグリップの形状、そもそもクリップ周りは透明パーツでいいのかなど、あらゆることを検討して、悩みながらたどり着いたのが、現在の形なのです。
「最近の化粧品などでもよく見られる、表面の透明パーツからぼんやり色が透けて見えるようにして、表面加工は梨地(梨の皮のように細かい凹凸を持たせた表面加工)にしてザラッとした質感にしています。そこがこの商品のポイントだと思っています。また、全体的にかなり細かい調整をしていて、かなりの数、リトライを繰り返しました」という栗原さんに、広報の田中万理さんが「グミっぽいかわいさですね」と指摘されていました。確かに、グミっぽい透明感と触感です。
安っぽくならない、選んでもらえるディテールへのこだわり
「他社の競合製品より価格が少しだけ高いので、高級感といいますか、安っぽく見えないように意識しました。1本買うだけなら、それほど気にする価格差ではないと思うのですが、色をそろえたい方も多いので、そうなると数十円の差は大きいんです」と栗原さん。コストを抑えながら細部に徹底的に凝ったため、デザインと設計と生産の間で、何度も意見や試作が行き来したそうです。リフィルは220円の「ジュースアップ」と同じものを使っているため、コストダウンは軸のデザインや構造で実現する必要があったのです。
「形をスッとスマートにするところは、『ジュースアップ』のデザインを意識しています。また、ペンの先端部分も樹脂軸によくある丸みを帯びた形ではなく、『ジュースアップ』の金属の口金と同じような円錐形にしました。『ジュース プラス』はどうしても樹脂の厚みがある分、シャープさに劣る部分はあるかもしれませんが、先端の形もかなりこだわっています」と栗原さん。 そんなふうに、本当に細かいところまで気が配られていることもあって、個人的には220円の「ジュースアップ」よりも、165円の「ジュース プラス」の方が書き心地がよく感じます。もっとも、それは筆者があまり低重心のペンを好まないということもあるのですが、白軸で梨地で、主張し過ぎないグリップというのが、とても私好みなのです。
その上で、シナジーチップによって滑らかに、顔料インキらしい鮮やかな発色で書けるので、極細字なのに見やすいのです。ネモフィラのような淡い色も十分に実用的な濃さになるのは、顔料ゲルインキならではです。学生向きに作られていますが、これまで極細字のペンが苦手だった人の入門用にもいいと感じました。














