トンボ鉛筆「水性ゲルボールペン モノグラフライト」220円(税込)。ボール径は0.5mmと0.38mm、軸色は写真上からピンク、パープル、ブルー、グレー(以上0.5mmのみ)、モノカラー(0.5、0.38あり)。インク色は0.38mmは黒のみ、0.5mmにはその他、赤と青あり
同じシリーズに「油性ボールペン モノグラフライト」もあり、デザインや機能に統一感を持たせた「モノグラフシリーズ」となっています。 モチーフが製図用シャープペンシルということもあって、「水性ゲルボールペン モノグラフライト」も、ペン先がだんだんと細くなり、先端はパイプ状になっています。しかもそのパイプが約5mmと、かなり長いのが特徴です。
「狙ったところに均一に筆記でき、すぐに乾いてきれいに仕上がる精密筆記の汎用系ボールペンというのが概要です。ボールペンで精密筆記とは通常言わないのですが、製図用シャープペンの系譜という意味で言葉を作りました」と、株式会社トンボ鉛筆プロダクトプランニング部長の佐藤和明さん。
相反する性能を両立させた「モノドライインク」
長いパイプによって筆記している部分がよく見えることや、ローレット加工(滑り止めや装飾などのために細かい凹凸を刻む加工)の金属グリップを模した、大きく溝が深い軟質樹脂製グリップといった、製図用シャープペンシルの機能性をボールペンに適用。これにより精密に狙ったところに文字が書けるというのが、「水性ゲルボールペン モノグラフライト」の基本的な特長ですが、それだけではありません。「学生に人気の高いゲルインクですが、インクの乾きが遅いとか、途中でインクがかすれたり途切れたりする、インクがにじむといった欠点も指摘されています。そうしたゲルインクの現状を踏まえて開発したのが、今回使っている『モノドライインク』という新しいインクです。特徴を一言でいうと、すぐに乾いて裏抜けがしにくい(紙の裏にインクが染みにくい)んです」と佐藤さん。
速乾性ゲルインクというのは、さまざまなメーカーから発売されていますが、大体は、すばやく紙に染み込ませることで速乾性を実現しています。しかし、その方法は一方でにじみやすく、また紙に深くインクが染み込むので裏写りもしやすくなるという欠点を抱えていて、そのバランスをどう取るかも、インクの個性になります。 「速乾性とにじみや裏写りはトレードオフの関係にあり、今回は特ににじみを抑えながら、速乾性をどこまで上げられるか、といったアプローチをしています。そのため、実は速乾性という点では他社製品よりも若干劣っているのですが、絶対評価では速乾であるという評価が得られているので、このレベルでよしとして、逆ににじみに関しては競合品よりも確実にいいという評価が得られるようにしました。やはり『精密筆記』と言うからには、にじみにくさや線の仕上がりの美しさは重要なポイントですから」と佐藤さん。
ユーザーが求めている「きれいな線」を実現する
線がにじまずクッキリと書けるため、見やすい文字になる。グリップが握りやすく滑りにくいので疲れにくいのも魅力
「実際のゲルインクユーザーへのアンケートでも、にじみにくさや線の仕上がりの美しさが求められていました。速乾性に優れていれば線を引きずりませんし、にじみにくいと裏抜けしにくいので、その両立が重要だと無理を言って開発部門に作ってもらいました。ある程度染み込むのですが、一般的な速乾タイプほどは染み込みにくくなっています。そして、染み込み方も横に広がりにくい設計にしています。この2つのバランスのチューニングに苦労しました」と佐藤さん。
話を聞くとなるほどと思うのですが、最終的には書いては調整するという繰り返しになるのはインク開発の宿命のようなもの。特にこの「モノドライインク」のような、今までにないバランスを狙った場合、その試行錯誤はかなり大変だったことでしょう。
ペンを寝せても立てても均一な線が心地よく書けるペン
「実はインクだけでなく、チップとインクの合わせ技で、速乾性とにじみにくさを両立させているんです。インクの特性には粘度や流動特性などがあり、それをコントロールしてにじみにくさと速乾性のバランスを取るのですが、それだけではなくチップでもインクの出る量や出方といったものを制御しているんですよ。インクがたくさん出るほうが書き心地はよくなります。今回の『水性ゲルボールペン モノグラフライト』では、そのインクの出る量が、どの角度で書いても変わらないようにチップを設計しているんです」その設計のポイントになったのが、ノートのページをめくった時に黒い点が残る裏抜けを何とかしようということでした。ただ、インクがたくさん出る気持ちいい書き味もしっかり残したいという思いが佐藤さんにはありました。
「インクの出る量をあまり絞り過ぎると、油性ボールペンのようになってしまうんです。ゲルらしいみずみずしさは残しつつ、書く時の角度や速度で字が太ったり痩せたりするのをうまく制御したいという私のわがままを、開発部隊が聞いてくれました。化学的なインクの特性と物理的、メカニカルなチップ設計の両方で、インクの出方と線幅のバランスを取っているのです」と佐藤さん。
このペンを使っていて驚くのは、筆記角度を変えても線の太さや書き心地が変わらないことです。しかも、紙に対してかなり斜めに書いてもパイプが紙に当たることがなく、インクも立てて書く時と同じように出ます。
筆者には、このにじまない線が、適当に書いてもきちんと引けるということが、このペンを愛用する理由となっています。しっかり文章を書く場合は、パソコンやスマホを使うことが多いのですが、だらだらと思い付くままにいろいろ書くときは、手書きでなければうまくアイデアが湧きません。そうした時に、このペンがいいのです。
筆記角度で線が変わらず、しかも速乾なので、小指側の手の側面で書いた文字を擦ってしまうこともなく、左利きの人にも使いやすいでしょう。右利きの人の縦書きにもおすすめ。
「もちろん、線の太さやインクの出る量が変わることで抑揚のある線が書けるという方向もアリだと思います。ただ、今回の製品の場合、それでは『精密筆記』という製図用シャープペンから来る流れとコンセプトがブレてしまいます。そこは一貫させたかったので、開発部門に頑張ってもらいました」と佐藤さん。
細い文字が書けるニードルチップのボールペンというスタイルを取るなら、均一な美しい線が書けるという部分は譲れなかったということでしょう。
油性もゲルもシャープも横断する「モノグラフ」というブランド
上が「水性ゲルボールペン モノグラフライト」、下が「油性ボールペン モノグラフライト」。軸色はいろいろだが、グリップやペン先は完全一致。もちろんチップもインクも違うが、ゲルと油性でデザインがそろっているボールペンはあまり類を見ない
「名前に関しては、社内でもいろんな意見をもらいました。発売ギリギリまでさまざまな声が寄せられました(笑)。ただ、油性の『モノグラフライト』を発売した際、単純にシャープペンシルの『モノグラフ』に比べて、商品名が長いと思ったんです。なので、例えば『モノグラフライト・ゲル』など、何か要素を付けると長くなり過ぎると感じました。それに、『モノグラフ』という名前とブランド、ロゴマークをもっと普及させたいという思いもありました。今となっては、そこまでこだわらなくてもよかったかもしれないとは思うのですが」
佐藤さんは笑ってお話してくださったのですが、確かに「モノグラフ」というブランドを考えた時、シャープペンシル、油性ボールペン、ゲルインクボールペンを横断して同じブランド名が付く筆記具は意外に日本では少ないのです。すぐ思い付くのはパイロットの「オプト」シリーズくらいでしょうか。その意味では、インクやメカニズムではなく、「精密筆記」というスタイルで統一された筆記具ブランドとしての「モノグラフ」という打ち出し方は、むしろ新鮮で分かりやすいとも言えます。
しかも、同じ軸、同じデザインなので、実は「モノグラフライト」の軸には、油性インクのリフィルも、今回の水性ゲルインクのリフィルも入れられます。この油性とゲルで同じ軸を共有できるというのも、インクを横断するブランドだから可能になったスタイルで、なんだか面白く感じました。











