見上げると、懐かしいドット絵風の列車アイコンがずらりと並んでいる。描かれているのは、歴代の国鉄車両から現役車両まで、時代を超えたさまざまな列車たちだ。
この発車標はいったい誰が、どんな思いで作っているのか? 熱海駅を管轄するJR東日本へ取材を申し込んだところ、制作者本人に話を聞くことができた。今回は、これまでに熱海駅に登場した発車標を一挙紹介する(全2回の#1)。
話題の発車標が見られるのは2・4・5番線ホーム
現在、列車アイコンが並ぶ発車標を見られるのは、熱海駅の2・4・5番線ホームだ。電車が発着しない時間に表示されるため、本数が少ない朝や夜の時間帯が比較的見やすい。2025年11月10日時点で見られるのは、岩手県と山形県をPRする発車標だ。JR東日本のキャンペーン「TOHOKU Relax」に合わせて制作されたもので、表示板の左側に16種類の列車アイコン、右側に東北・山形新幹線のアイコンと、岩手・山形の名物を表す文字が並んでいる。
最新作として、11月28日、29日に熱海駅ビル「ラスカ熱海」で開催される「駅弁&あた弁祭り」告知のための発車標も見ることができる。列車アイコンに加えて、人気駅弁がアイコン化されている。 さらに、2025年12月28日まで実施中のデジタル駅スタンプアプリ「エキタグ」と、テレビアニメ『Summer Pockets』(TOKYO MXほか)のコラボイベントにあわせて、アニメに登場する「七影蝶」が描かれた発車標も見ることができる。
C62、EF58、185系……44種類の列車アイコンを制作
2024年10月1日の湯河原駅開業100周年をPRする発車標。往年の車両が並ぶ 。※車両名は上段左から:C62、EF58、80系、151系、EF65 500番台、183系、伊豆急100系、EF65 1000番台、185系、14系客車、マヤ車(計測車)。下段左から:157系、113系、EH10系、165系、EF66、215系、251系、E259系、583系、E651系 伊豆クレイル、検測車
発車標は、数秒ごとに日本語と英語の表示が切り替わる仕組みになっている。それを利用し、2024年の湯河原駅100周年と、2025年の熱海駅100周年の告知を交互に表示するようにした。
表示には、過去の車両と現役の車両がそれぞれ22種類ずつ、合計44種類の列車アイコンが並んでいる。いずれも熱海駅を通過したことのあるJRもしくは旧国鉄と、熱海駅に乗り入れる伊豆急行の車両だ。
なかでも、C62、EF58、80系、151系、185系など、歴代の国鉄車両のアイコンを描いた発車標は多くの鉄道ファンの目に留まった。SNSでも「超絶」「見入ってしまう」「ファミコン感!」など、多くの反響が寄せられた。
2025年3月25日の熱海駅開業100周年をPRする発車標には現役車両が描かれている。※車両名は上段左から:E257系踊り子、E261系サフィール、E657系、E231系、211系、315系、100系、リゾート21 キンメ電車、M250系、EF210系、キヤ85。下段左から:E257系、サンライズ285系、E655系、E233系、373系、313系、2100系リゾート21、E257系、EF66、EF510、E491系
ブルートレイン「寝台特急出雲号」をアイコンに
続いて登場したのは、2024年冬に開催された「トレインスタンプラリー」に合わせた発車標だ。このイベントでは、過去の機関車や事業用車を「栄光の車両」としてスタンプ化。熱海駅に設置された「寝台特急出雲号」のスタンプをモチーフに、よりリアルなアイコンを制作した。 モチーフとなっているのは、青い車体が特徴の寝台特急列車「ブルートレイン」最盛期のころの車両だ。「出雲」を象徴する朱色のヘッドマークとともに、当時の姿が細部まで再現されている。スタンプラリーの告知が切り替わると、画面にはクリスマスツリーやプレゼント、「MERRY CHRISTMAS」のメッセージが表示される。カラフルでキラキラと輝く発車標は、まるでクリスマスイルミネーションのようだ。
ハイグレード車両「なごみ」や「熱海駅キャラ」もアイコン化
2025年3月には、熱海駅開業100周年を記念し、特別運行された団体臨時列車・E655系「なごみ」のアイコンが登場。全車グリーン車で構成され、「お召し列車」にも使用されるハイグレード車両だ。その特徴である、光の加減によって色合いが変わる車体の漆色を、深みのある赤色で表現した。 同年6月には、4月に発表された熱海駅のキャラクター「あたゆ丸」が、熱中症予防を呼びかける発車標を制作。熱海市消防本部と連携し、9月末まで実施された熱中症予防キャンペーンの一環で、発車標と合わせて音声アナウンスによる注意喚起も行われた。 なお、反転時に表示されるもう一人のキャラクター「ラーヤ」は、JR東日本熱海駅の荒屋祐佳利駅長をアイコン化したもの。勤務中の駅長を拝見すると、ご本人そのものである。こちらは“非公式キャラクター”とのことだ。列車アイコンはその都度入れ替えられ、新作も随時登場している。今後も、新たなキャンペーンに合わせた新作の登場が予定されているとのこと。熱海駅を利用する人はぜひチェックしてみてほしい。
次回は、発車標誕生までのエピソードと、実際の制作の裏側を初公開する。
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取材・文:細谷朝子
フリーランス編集、ライター。雑誌、Web、広告等で記事編集、コンテンツ企画、取材、執筆などに携わる。全国の自治体や官公庁の観光サイトディレクションを約10年間担当。インバウンドサイトのディレクション経験も豊富。2021年より熱海在住。

















