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大阪・関西万博“逆転”成功の5つの要因とは?一人ひとりのレガシーとともに「来場者目線」で分析 ここでは、今回の万博が投げ掛けた「未来への課題」について、来場者の目線から4点取り上げます。この貴重な教訓を、2030年に開催されるリヤド万博や、あわよくば世界の調和や発展につなげてもらえたらと思います。
<目次>
未来への課題1. 予約システムが難しく、情報格差につながった
大阪・関西万博の予約システムは、開幕前からその難しさが指摘されていました。筆者が4月の初訪問に向けて予習をしていた2月頃の友人とのメッセージのやりとりを見ると、自分がシステムで四苦八苦していた様子がよく分かります。公式予約システムの操作方法に限らず、その背景にあるパビリオン予約の制度設計そのものから勉強する必要がありました。
万博ID、チケットID、複数人予約のためのIDのひもづけといったところから始まり、予約できるパビリオンとそうでないパビリオンがありそうだという前提から、ではどこのパビリオンが予約できるのか(できないのか?)、運がよければ第5希望まで全部当選できるのか?(実際は1つだけ)、開幕前は情報が少な過ぎて調べることは大量にありました。さらに会場へ向かうバスの予約は別アプリ……。
4月13日に「よーいドン!」で開幕した時には、数カ月間予習してきた人とそうでない人の間には相当な情報格差が生じていました。 その後は、来場者による情報発信が日増しに増えていき、5月以降はインターネット上でもいろいろな情報を拾えるようになっていましたが、遠方から一生に一度の万博体験のつもりで来場する人たちには、その複雑なシステムと情報をキャッチアップする余裕はなかったと思います。
つまるところ、“並ばない万博”の実現のためには、どうしても複雑な予約制度、システムが必要だったはずで、それが今回のシステムの煩雑さにつながったのでしょう。
とはいえ、IT技術を駆使して情報を取れた者が勝ちを収めるというのは現代社会の姿そのものでもあり、その点では、全部が全部反省点というわけでもないと思います。
確かに、この予約システムをうまく使いこなすことで、多くのパビリオンを並ばず効率的に回ることができました。このことが、通期パスで通うリピーターたちの意欲をくすぐり、それがこの方々のポジティブな情報発信につながり、万博の評価が逆転していくことになった面もあると筆者は考えています。
ある意味、今回のシステムの難しさは“並ばない万博”の代償だったと言えるのではないでしょうか。システムに欠陥があったのではなく、かなり完成度の高いシステムだったゆえに、使いこなすのに時間と労力がかかったというのが課題だったのだと思います。
未来への課題2. 海外からの来場者をあまり呼び込めなかった
これは如実に感じた人も多かったと思います。何しろ街中のちょっとした観光地の方が外国語が多く聞こえてくるくらいでしたから、うまく呼び込めてはいないのが明らかでした。国内のお祭りならよいですが、何と言っても万国博覧会ですから、大きな痛手だったと言わざるを得ません。会期終盤の混雑を見て、この上外国人まで来たら……と感じる方も少なくないとは思いますが、それはまた会場キャパシティーなどの別の話になると思います。万博である以上、開催国のためだけのものであってはいけませんし、実際に会期前半には会場に余裕のある日もありました。
上記のシステムの難しさも一因でしょう。多言語対応はしっかりされていましたので、言葉の問題ではありません。上述の筆者が体験したような四苦八苦をしてまで、貴重な時間とお金を使ってタイトな日程でやってくる外国人観光客が万博予約に力を入れてくれるかと言えば、相当難しいということです。富士山、金閣寺など、ほかに行きたいところは山ほどありますからね。
コンテンツはよいのだけれど、それをどうやって海外に知ってもらうかというノウハウも、国全体がまだまだ試行錯誤の発展途上なのだと思います。
国際交流という点においては、各国パビリオンの本国人スタッフと日本人来場者の交流のみならず、外国人来場者を交えた多角的な交流がもう少し活発化できれば、よりよい万博になったのではないでしょうか。
未来への課題3. “当たらない万博”
“並ばない万博”を目指した今回の万博、終盤には“入れない万博”などと文字られましたが、筆者も一口乗らせてもらうとすれば、この“当たらない万博”でしょう。並ばない万博のための予約抽選ですので、やはり体感としてもう少し当選しやすいものであってほしかったと感じます。
原因は、当たりの総数が不足気味だったということがまず考えられます。盛況に終わったとはいえ、当初の予測入場者数2820万人には届かなかったわけですから(最終来場者数は約2558万人)、来場者が予想より多過ぎたということではありません。
国内パビリオンはほとんどが予約制でしたので、あとは外国館の予約枠追加ということになりそうですが、それも限度があったでしょう。何より、予約なし来場者の行き場がなくなってしまいます。
開催国の威信にかけて造られた日本館は事前予約制。「火星の石」を含む目を見張る展示内容のみならず、予約なしで並べる時間帯の設定の他、当日枠をいわゆる“ガンダム方式”で配分するなど、抽選に外れた人への配慮が感じられるパビリオンだった
厳しい言い方になるかもしれませんが、並ばない万博と2820万人達成の両立はやや無理があったのではないでしょうか。この点も、並ばない万博の代償の1つだったように思います。
未来への課題4. 今まさにある「いのちの危機」について、今一つ訴え切れていなかった
今回の大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。そのサブテーマは「いのちを救う」「いのちに力を与える」「いのちをつなぐ」の3つでした。今回、大阪での開催が決定してから、パンデミックが発生して準備期間の半分ほどはコロナ禍の最中という極めて特異な状況の中でした(このハンディを乗り越えたのは本当にすごいと思います)。
その頃、当時の首相が東京五輪を「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証し」として開催すると言いましたが、本当にそれができたはずだったのは、むしろ“いのち”をテーマにした今回の万博の方だったのではないか、と閉幕後の今、感じます。
新型ウイルスに限らず、万博の会期中にも世界の各地で紛争、戦争は続きました。特にパレスチナ自治区ガザでの人道危機は子どもを含む何万人もの人々が死亡、そして引き続きいのちの危機にさらされています。
このようないのちの現実に対して、テーマ通り真正面から向き合う取り組みも、あえてもう少し必要だったのではないでしょうか。
シグネチャーパビリオン(いのちをテーマに考えるパビリオン群)は全部で8館あり、それぞれの内容は素晴らしいものでした。しかし、例えばもう1つ、「いのちの危機」パビリオンのような試みによって、救うべきいのちのリアルを来場者に知ってもらい、行動変容を促すような取り組みにつながれば、より具体的で実効性のある大阪・関西万博のメッセージとして世界に発信できたのではないかと思います。 ガザの人道危機は、10月13日にガザ和平会議(Gaza Peace Summit)が世界の首脳により開催され(当時の石破首相はこの日万博閉会式に出席)、皮肉にも万博閉幕日に人質解放、和平に向けて大きく前進することになりました。
平和は言葉にすることも大切ですが、「いのちを救う」には、やはり行動に移すことも重要ということだと思います。
残されたレガシーを手に、次の旅へ
さて、次回2030年10月から開催されるリヤド万博に、早くも行きたくなってウズウズし始めている人もいるのではないかと思います。サウジアラビアは、かつて観光ビザの発行をほぼ制限していましたが、2016年に発表された国家的ロードマップ「サウジ・ビジョン2030」によって経済の多角化を進めていくことが示され、リヤド万博もその一環で、観光開発も大きな指針となっています。
ちなみに大阪万博では9月23日のサウジアラビアのナショナルデーに先立ち、9月22日に「サウジ・ビジョン2030フォーラム」が開催されました。 日本人の入国にはビザが必要ですが、観光入国のハードルは従前と比べれば大幅に低くなっています。サウジアラビアは今後もより多くの観光客を世界から受け入れていくことになるでしょう。リヤド万博が開催される2030年には、これまで以上に国際色豊かなサウジアラビアの姿を見られるかもしれません。
大阪・関西万博は終わりましたが、言ってみればこの地球そのものが1つの万博会場のようなものです。残されたレガシーを片手に、未来を考える旅を続けていきましょう。
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