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今のままでは“介護難民”が増えてしまう…大切な司令塔「ケアマネジャー」が減り続けている深刻な理由

要介護者は増え続ける一方で、介護サービスの中心的な役割を果たす「ケアマネジャー」は減少し続けています。このままでは、必要な介護サービスを受けられない要介護者や介護家族が増えてしまうリスクがあります。※画像:PIXTA

横井 孝治

横井 孝治

介護・販促プロモーション ガイド

2001年の夏から急に始まった両親の介護を通して、多くのことを考え、悩み、そして学んできました。現在は、正しい介護情報を多くの方々と共有するため、介護情報サイトの運営や、執筆、講演活動を行っています。2011年からは、20年以上のキャリアをもとに「販促プロモーション」ガイドにも就任しました。

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介護サービスにおいて中心的な役割を果たす「ケアマネジャー」は減り続けています ※画像:PIXTA

介護サービスにおいて中心的な役割を果たす「ケアマネジャー」は減り続けています ※画像:PIXTA

要介護者が増え続ける一方、介護サービスの司令塔となる「ケアマネジャー」は減少傾向にあります。このままでは、必要な介護サービスを受けられない「介護難民」が増えてしまいかねません。ケアマネジャーが減っている理由と必要な対策について、介護アドバイザーの横井孝治が解説します。
<目次>

要介護者は増える一方で、ケアマネジャーは減少傾向

要介護者数が増加し続けていると知っている人は多いでしょう。要介護(要支援)認定者数の推移を見てみると、2000年4月は216.5万人、2010年4月は倍以上になって487万人、2020年4月は669.3万人、そして2025年1月は719.7万人となっています。要介護(要支援)認定者数は2040年にピークを迎えるといわれており、988万人に上るとのこと。この状況に不安を感じる人も少なくないはずです。

そんな中、介護において中心的な役割を果たす「ケアマネジャー」の数はどうなっているのか。ケアマネジャー資格受験者の推移を見ると、2000年に12.8万人、2010年に14万人、2020年になると急激に減って4.6万人、2024年5.3万人と若干増えたものの当初の勢いは全くない状況です。

受験者の中から合格した人「ケアマネジャー資格取得者」は、2000年に4.4万人(合格率34.2%)、2010年2.9万人(合格率20.5%)、2020年0.8万人(合格率17.7%)、2024年1.7万人(合格率32.1%)。2024年に若干盛り返したものの、介護保険ができた2000年ごろと比べると見る影もない状況です。

ケアマネジャー有資格者数と従事者数、つまり、今ケアマネジャーの資格を持っている人がトータルで何人いるのか、そしてそのうち何人がケアマネジャーとして働いているのかを見てみましょう。

ケアマネジャーの資格取得試験第1回~27回までに資格を取得した人は合計76.8万人です。そのうち現在ケアマネジャーとして従事している人は18.3万人にすぎません。

これまでの結果を踏まえると、受験者や資格取得者、従事者のいずれも大幅に減り続けていると言えそうです。

ケアマネジャーが減ってしまう5つの理由

ケアマネジャーは介護にとって大切な存在にもかかわらず、成り手が減少してしまうには何か理由があるはずです。筆者が介護の専門家として考えうる理由を5つピックアップしました。

【理由1:賃金、待遇の低さ】
ケアマネジャーの業務は非常に複雑です。そして責任も重大。しかし給与は他の介護職、例えばヘルパーと比較してもとても恵まれているとは言いにくいです。厚生労働省の調査でも「賃金・処遇が低いこと」が人材確保が難しい最大の要因として挙げられています。

そのような中、特に問題となっているのは「処遇改善加算」。介護業界の給料や待遇は他の業界に比べると低く、成り手が少ないため、国から「改善加算」という加算金を介護報酬に上乗せして支払うことで、現場で働く人たちの賃金や環境を向上させる措置のことです。

ただし、現場で働く介護スタッフやヘルパーは対象となっているものの、ケアマネジャーは対象外なのです。ここが大きな問題点です。地域や事業者の種類、事業者の経営方針にもよりますが、介護スタッフよりケアマネジャーのほうが収入が少なくなってしまうケースも珍しくありません。筆者は、他の介護スタッフと比べて100万円ほど年収が低いという人の話を聞いたことがあります。

【理由2:シャドウワークによる業務負担の増大】
「シャドウワーク」とは、本来の業務以外に発生する法定外業務のことを指します。このシャドウワークの増加がケアマネジャーにとって大きな負担となっています。おひとりさまや老老介護の利用者が増え、親族の支援が期待できないケースが増加したことが主な要因でしょう。

よくあるシャドウワークの事例は以下の通り。
  • 利用者が入院するときの対応
  • 救急搬送時の同行
  • 書類作成の代行
本来なら成年後見人が行うべき業務まで抱え込まざるを得ない状況に陥っているケースも多いのです。

【理由3:更新研修制度による負担】
ケアマネジャーの資格維持には定期的な更新研修が必要なのですが、それも大きな負担の1つになってしまっています。例えば、地方在住のケアマネジャーの場合、研修会場に行くまでの移動時間や交通費、研修期間中の代替職員の確保などは事業者にとって大きな問題となっています。

ケアマネジャーの更新研修制度に必要な時間は以下の通りです。
  • 更新研修(初回):88時間
  • 更新研修(2回目以降):32時間
  • 主任ケアマネジャー研修(初回):70時間
  • 主任ケアマネジャー更新研修:46時間
実務に追われる中でこれだけまとまった時間を確保するのはとても大変なことです。さらに、出産や育児などで休職している人の場合、更新研修のためだけに自宅から離れた会場に行くのは難しいこともあります。結果として資格を失ってしまうことにもつながりやすいのです。

【理由4:受験資格要件の厳しさ】
ケアマネジャー試験を受験する資格を得ること自体のハードルがかなり高いことも、ケアマネジャーが減ってしまう理由の1つと言えそうです。もし新しくケアマネジャーになりたいと考える人がいたとしても、実際に試験を受けるまでのハードルが高すぎるため受験に至らず、参入障壁となってしまっているわけです。

ケアマネジャーの受験資格要件はまず、「指定の国家資格」または「相談援助業務」の経験があること。そして5年以上の実務経験、かつ900日以上の従事実績があること。この全てを満たして初めてテストを受けられるようになるのです。

指定の国家資格には医師、歯科医師、薬剤師、保健師、助産師、看護師などさまざまな国家資格が挙げられています。そして相談援助業務は生活相談員、支援相談員、相談支援専門員、主任相談支援などが該当します。

なお、「実務経験5年以上」というのはあまりに長すぎるのではないか、というのは国も同じように考えていて、「3年」に減らす方向で検討していると報道されています。

【理由5:ケアマネジャーの高齢化】
現在60歳以上のケアマネジャーの割合が増えており、60歳以上のケアマネジャーは全体の33.5%を占めるという統計もあります。一方で、45歳未満の従事者の割合は減少中。今後定年退職者が増えていく中で、若い世代の成り手が増えなければ、ケアマネジャーの数はかなりの勢いで減少する可能性も否定できません。

>次ページ:国や自治体に求められている対策は?
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