万博の開催期間は国際博覧会条約によって6カ月以内と定められており、残念ながら延長はできません。主催者やスタッフの方々にとっても、この日と定めて尽力してきたゴールを延長するというのは、心身ともになかなか苦しいものがあるかと思います。
今回は、All Aboutの海外旅行ガイドが、大阪・関西万博の逆転成功の要因を「来場者の視点で」振り返ってみたいと思います。皆さまに共感していただける点が1つでも多くあれば幸いです。
成功の要因1. 大屋根リングのコンセプト
入場ゲートをくぐると正面にそびえて見える大屋根リングは、まさに今回の万博のシンボルそのものでした。のみならず、閉会式での石毛事務総長の「世界は多様でありながら1つというメッセージ」をまさにこれ以上にない形で壮大に体現していたと思います。加えて、上に登って大パノラマを楽しみながら一周できるというアトラクションとしての役割、会場内の明瞭な移動ルートとしての機能、夏の太陽から守る日陰の提供という実用性、どれをとっても秀逸でした。 一部がレガシーとして保存されるということで、大変うれしいですし、またいつか登って思い出を振り返ってみたいと思っています。
もう1つ個人的な感想として、空から見た大屋根リング全景は万博会場の一体感を見事に際立たせていて、朝な夕なの空撮写真は、何と言うか人の情感に訴えるものがあり、万博を象徴する光景としてもふさわしいものでした。
このイメージは、今後も5年ごとに開かれる国際博覧会そのもののポートレートとして、これから半世紀、一世紀と万博を象徴し続けるのではないでしょうか。
成功の要因2. パビリオンのクオリティー
これはあえて愛知などの以前の万博と比較してというわけではなく、イベントも含めて、その日その日の来場者を十分に満足させて余りあるだけの体験、展示内容を有していたという意味です。なかには評価の芳しくないパビリオンもありましたが、万博の“いのち”はやはりパビリオンで、これが不出来ではまずいレストランと同じことです。
当初のネガティブな評判が逆転したのは、PRが功を奏したわけでも報道姿勢が変わったからでもなく、これだけのコンテンツがあったからこそ。それがインターネットやSNSを通じて率直な感想として広まったからだと思います。
その点、今回の万博の成功は、「見せるべきものをしっかり見せることができた」という堅実な企画立案のたまものとも言えるでしょう。
夜のインドネシア館。会期中盤から自然発生的?に始まった、入り口案内スタッフによる「ヨヤクナシ、ツメテクダサイ、ドウゾ!」の歌とダンスは万博名物の1つとなり、インターネット上ではヨヤクナシガールズ(ボーイズ)の異名まで付くほどの人気だった
成功の要因3. スタッフの献身
今回の万博を支えてくれた大勢のスタッフには直接御礼を言う機会もありませんでしたが、この場を借りて心より感謝を伝えたいと思います。どのポジションに配置されている方も「やらされてる感」が全くなく、かといってあまり表に出ようとすることもなく、粛々と、しかも嬉々としながら来場者の思い出作りをサポートしていました。
閉会式にはタレントの起用よりも、このような現場を支え続けたスタッフたちが思いを語る場を作った方が、よりメッセージとして伝わったのではないでしょうか。 184日間を通して大きな事故もなく終えることができたのは、このスタッフたちの献身が極めて大きいと思います。
成功の要因4. ミャクミャクの人気!
これは日本人の無類のゆるキャラ好きが功を奏したとも言えるかもしれませんが、ミャクミャク人気なしに大阪万博の成功を考えることもまたできないでしょう。当初は不評だったキャラクターのデザインが一転、人々に受け入れられて空前の人気者にまでなれたのは計算通りだったのか結果オーライだったのかは分かりませんが、ハズレなしの「ミャクミャクぬいぐるみくじ」は連日数時間待ちの大盛況だったようです。
大屋根リングが万博の大規模レガシーなら、子どもたちが会場で買ってもらったミャクミャク人形も一人ひとりの「心のレガシー」として、これから先何十年もこの万博の思い出を継承してくれるのではないでしょうか。
成功の要因5. 未来が少し見えた!
皆さんはこの万博でどんな未来が見えましたか? 「未来の都市」パビリオンを訪問した人は多かったと思いますが、多くの企業がそれぞれの描く未来の姿、そしてそれを実現する技術を惜しみなく披露していました。空飛ぶクルマも出現しましたし、「大阪ヘルスケアパビリオン」では地元の中小企業、スタートアップによる新技術の展示が入れ替わりで行われていたほか、人間洗濯機やIPS細胞からできた心筋シート、また自分自身の25年後を見て感嘆した人も少なくないと思います。 これらの未来の姿を実際に目にすることで、われわれの意識の中に良い意味で固定観念として残り、日々の行動が変わることで、本当にそれらの未来が実現してしまう。そんな正の循環がこれからきっと、どこかで起こるのだろうと思います。
いかがでしたか? 「大屋根リング」が象徴する一体感、パビリオンの圧倒的なクオリティー、そしてスタッフの献身。これらの複合的な要素が、開幕前のネガティブな評判を覆し、大盛況という“逆転”の結果を生み出したのだと思います。
しかし、この成功の光と並行して、同時に見過ごすことのできない「影」、つまり未来へ残された課題も浮き彫りになりました。
次回は、海外旅行ガイドの視点から、万博の成功の裏側に潜む課題を深掘りします。ぜひ合わせてお読みください。
【続きを読む】
“並ばない万博”の代償は? “いのち”の万博が訴えきれなかった「危機」と、リヤド万博に託す課題








