『部下からの逆パワハラで“もう無理”と思ったときに読む本 悩める上司への処方箋』(加藤京子著)では、「多様性」を主張する部下への具体的な対処法について解説しています。
今回は本書から一部抜粋し、個性を尊重しつつ「わがまま」を抑制するための境界線の引き方と伝え方について紹介します。
【事例】個性を尊重してください、多様性の時代ですといって、わがまま放題の部下がいて、困っています
多様性や海外志向に注目し、ダイバーシティの推進役として、若者の活躍を期待する企業が増えています。個性や多様性を受け入れることで、チームの創造性や生産性の向上を見込んでのことです。しかし、これを一手に任された現場の上司は、かなり負荷の高い仕事になっているようです。
(上司の悩み)
昨今、職場では、学生時代の留学や外資企業でのインターンシップ経験が豊富な人が増えているようです。
組織は「忌憚のない率直なコミュニケーション」「独自性や発想力の豊かさ」を買ってのこと、入社5年目のZ君も同様なのですが、彼は自由奔放です。客先にビーサンを履いていくこともあるようです。
先日、お客様から、「彼の服装、どうなの?」と指摘を受けました。
この話をZ君にすると「お言葉ですが課長、仕事とは本来、成果で評価されるべきではないでしょうか。見た目、そんなに大事ですか?」との返事がありました。
後日、あなたは、部長から注意を受けました。聞くところによると、彼はSNS (X, Instagram, YouTube等)のフォロワーが多く、有名なインフルエンサーのようです。彼のような今の若者タイプを我が社の戦力にすること、これが君の仕事なんだと言われました。
部下のタイプ
上下関係や縦社会が苦手なタイプかもしれません。年齢が上だからといって、尊敬や配慮姿勢を示すことはありません。周囲と合わせる努力をしない一方、周りには配慮を求めます。社交的で人懐っこく、可愛がられます。世渡り上手で、コミュニケーションも快活です。
上司(あなた)の気持ち
自分は地味だから、ああいう派手な部下を育てるのは自信がない、無理だ。(古いタイプのあなたには、わかりません)。上司と部下のすれ違いポイント
なぜ素直に「そうですか」と言えないんだろうと思う上司と、今は多様性の時代なのに、なぜ服装にまで口出しされるの? という部下です。さて、ひと口に「多様性」といっても様々な切り口があります。グローバルやジェンダーの違いというのは、どこかで割り切ることができますが、一番難しいと言われているのが、ダイバーシティが「エイジ」、つまり、「世代」の違いであるときです。
この事例で問題になっているのは、「多様性(自分らしさ・個性の尊重)」と「わがまま(組織秩序の崩壊)」が混在していることです。どうすればよいでしょう?
【1】確認する
論点はたくさんありますが、まず「個性」を主張しているだけか、それとも指導を受け入れない言い訳にしているかを見極めましょう。
「顧客から注意をされたこと」に着眼し、それによって周囲が被害を受けているか、弊害が出ているのであれば、そのあたりを起点として、話を進めていくのが賢明です。
お互いに共有すべき「拠り所」を探していきます。
「自分らしさ(個性)」が「わがまま」に摺り替わって不適切な状況になるのは、「自分の表現や価値観を尊重すること」と「他者や周囲との調和(仕事の連携や業績確保を含めて)を保つこと」のバランスが崩れたときです。
言い換えると、令和時代のマネジメントの難しさは、「個人行動(部下の個性を尊重する)」を尊重しながらも、「わがままな行動により会社に不利益が生じる」という欠点を抑制するという二重の役割を執行しなければいけない点にあります。
多様性を尊重しつつ、「適切な限度」を設けることで、チームのパフォーマンスを最大限に引き出さなければなりません。では、「適切な限度」とは、どうやって見定めればよいのでしょうか。
【2】境界線をつくる
①自分と部下の「生きてきた時代」が違うこと、価値観は違って当然であることを前提とする……部下は「個性を活かせ」「才能を伸ばせ」と言われて育ちました。もし、あなたの仕事の価値観(実直・生真面目等)を肯定できない世の中になっていると感じたのであれば、それは単に今の時代に合っていないだけと捉えてください。
「今昔」を比べて、自らを低く見立ててはいけません。
以前は、テクノロジーやコミュニケーション手段が限られていました。課題に対するソリューションも限られていました。それゆえに発揮すべき(求められる)能力やスタンス(価値観)が、今の時代と異なっているのは当たり前です。
「生真面目さや実直であること」を理由にして、過去の自らのスタンスを貶める必要はありません。卑屈になる必要もありません。
②多様性が重視されるほど「ルール(規律・規範等)」と「ゴールの共有化」が何より重要になる……成果で評価されることを主張する部下ですが、態度や見た目で損をすることも理解してもらいましょう。
「別の視点で考えたいんだが……」といって今必要なことが何かを考えさせてみましょう。
このケースでは会社の服務規律を利用してみてください。大切なのは「判断の基準を外側にもっていく」(攻撃の矛先を「自分にしない」)ということです。
服務規律とは、組織や企業が従業員に対して定める行動基準やマナー、勤務に関するルールです。
その指標に照らし合わせて、今、目の前の部下の言動が、「個性として尊重すべき類のものなのか」それとも「単なるわがままなのか」をチェックしてください。
【加藤 京子(かとう・きょうこ)プロフィール】
H・Rサポート、株式会社クレドコラ(credocara)代表。青山学院大学文学部フランス文学科卒業後、日商岩井株式会社(現・双日株式会社)入社。1998年に社会保険労務士資格取得、2000年に独立開業~現在H・Rサポート(港区西新橋にて社会保険労務士事務所経営)、2004年には研修講師として活動開始し、管理職選抜・昇格審査事業の一環として、部下育成の相談(面談)を受託。年間約100日(20年間)、約2万人対応。現在、研修講師および人材アセスメントのチーフコンサルタントとして活動中。著書に『Z世代に嫌われる上司 嫌われない上司』(ぱる出版)がある。