スキルアップトピックス

「名ばかり避難訓練」で大規模災害を乗り越えられる? 安野貴博が提言するAI時代の防災アプリ案

防災月間になると学校や職場で避難訓練が実施されるのが通例ですが、現状の訓練で大規模災害を乗り越えられるでしょうか? 個人に最適化された避難シミュレーションを可能にする防災アプリを安野貴博氏が提言。※サムネイル画像:PIXTA

All About 編集部

今の避難訓練で、大規模災害を乗り越えられる? 現状の避難訓練の課題を解決し、個人に最適化された避難シミュレーションを可能にする革新的な防災アプリを提言!※画像出典:PIXTA

今の避難訓練で、大規模災害を乗り越えることはできるのか? ※画像出典:PIXTA

いざという時、従来型の避難訓練で大規模災害を乗り越えることはできるのでしょうか?

2024年夏の東京都知事選で15万票を獲得、先の参院選で1議席を獲得した「チームみらい」党首・安野貴博氏の著者『1%の革命 ビジネス・暮らし・民主主義をアップデートする未来戦略』では、AIを起爆剤にして各業界をアップデートするための方法論を提言しています。

本書から一部抜粋し、個人に最適化された避難シミュレーションを可能にする革新的な防災アプリの必要性について紹介します。
<目次>

改善の余地がある「避難訓練」

まず「事前の備え」のフェーズで、改善の余地があるのは避難訓練です。

現状、さまざまな単位で行われている避難訓練はほぼすべて「一斉実施」です。あらかじめ決められた日時に非常ベルが鳴り響き、参加者たちは指示に沿って避難行動を確認します。参加者は受け身になりがちで、名ばかりの訓練になりかねません。

また避難訓練によっては、避難所まで行くのにかかった時間を計測しますが、そのタイムは自己申告で、担当者が紙に書き込むような形で行われるため手間暇がかかります。

東京都もこの点に課題を感じているのか、東京防災アプリに避難シミュレーション機能が追加されています。この取り組みを発展させ、個人で利用でき、かつ実効性がある避難訓練アプリを開発・普及できるとよいでしょう。例えば、次のようなイメージです。

革新的な防災アプリで訓練をイメージ

利用者はまず、普段の生活の場(自宅やオフィスなど)でアプリを起動します。すると周辺のマップとともに自分がいる場所がGPSで表示されます。「訓練開始」ボタンをタップすると、最寄りの避難所の位置とそこまでの経路が表示され、それを頼りに避難所まで歩いて移動します。

ただ、最短距離で行けるとは限りません。移動の途中で実際に起こり得る障害として、倒木による道路の寸断や火災などが発生したという情報がマップ上で提供されるので、それらを避けながらナビに従って目的地である避難所までたどり着く必要があります。そして避難所に到着すると「訓練完了」ボタンを押して終了となります(避難までにかかった時間が記録されます)。

実際の運用では、避難所到着時に、アプリが表示するバーコードを読み込ませると、誰がいつその避難所に入ったかが登録され、行政側やアプリをインストールしてある家族にも入所情報が提供される仕組みにするとよいかもしれません。

また学校の生徒がクラス単位で移動したり、介護施設単位で入所者が移動したりしたさいに、事前に紐づけた登録情報から避難先がアプリ上でわかるようにできればメリットは大きいでしょう。

訓練の実施率を把握、対策できる

アプリでの訓練なら、自分の都合に合わせて好きなときに実施できますし、避難経路に潜む問題点(昼間と夜間、天候の良し悪しでも大きく異なるでしょう)を個人レベルで認識しておくことができます。

行政側のメリットとしては、避難訓練の実施状況のデータを随時アプリから吸い上げることで、地域ごとの訓練実施率や避難所までの移動にかかる時間を把握できます。実施率が低い地域は、スマホを使いこなせない高齢者などが多い地域である可能性が高く、そうした地域に対してはアナログな手法も用いながら防災意識の啓蒙を行う必要がある、などの対策が浮かび上がってきます。

発災直後はインターネットが使えない状況になることも想定されますが、GPSさえ利用可能であれば、少なくとも避難所までの経路検索とガイド機能は使うことができます。

多言語対応で安心に使える設計に

当然、このアプリは多言語対応とするべきです。都内の在日外国人に、こうしたアプリで避難所までの経路が示され、プッシュ型で情報が随時配信されたら、言語の壁による大きな混乱は避けられるはずです。

さらにいうと、このアプリに、利用者が経路上で発見した何らかの異常(家屋の倒壊や道路の寸断など)を登録できる仕組みまで実装できると「分散型情報インフラ」の構築ができて、より機能性が高まることになります。
  安野 貴博(あんの たかひろ)プロフィール
AIエンジニア、SF作家。1990年、東京都生まれ。東京大学工学部システム創成学科卒。在学中、AI研究の第一人者、松尾豊氏の研究室に所属し、機械学習を学ぶ。ボストン・コンサルティング・グループを経て、2016年にAIチャットボットの株式会社BEDORE(現PKSHA Communication)を創業。2018年にリーガルテックのMNTSQ株式会社を共同創業。2019年、「コンティニュアス・インテグレーション」で第6回日経星新一賞一般部門優秀賞を受賞。2021年、『サーキット・スイッチャー』で第9回ハヤカワSFコンテストで優秀賞を受賞し、作家デビュー。2024年に東京都知事選に出馬し15万票獲得。2025年1月「デジタル民主主義2030」発足、同年5月に「チームみらい」を結党し、参議院選挙(比例代表)で初当選、政党要件を満たす2%以上の得票率を達成。AIを活用した市民参加を軸に、現場と政策をつなぐ活動、双方向型のコミュニケーションを実践している。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

あわせて読みたい

カテゴリー一覧

All Aboutサービス・メディア

All About公式SNS
日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
公式SNS一覧
© All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます