『お金のニュースは嘘ばかり 厚労省・財務省から外国人投資家まで』は、人気の経済学者・高橋洋一氏が世の中のお金をめぐるニュースを取り上げ、政治・官僚・マスコミの俗説・空論をぶった切る一冊です。
今回は本書から一部抜粋し、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)やNISAに潜む不都合な真実について紹介します。
喜んではいけない! 45兆円黒字の裏側
確定拠出年金に関して、注目すべきなのがGPIFでしょう。2023年度の運用実績を示す収益額は45兆4153億円の黒字と、過去最高額を記録しました。4年連続の黒字で、2024年度第3四半期末時点のGPIFの運用資産額は、なんと258兆6936億円。大半の日本人は、この莫大な金額はすべて公的年金の資金を運用しており、再び年金に還元している、と思うことでしょう。
しかし、じつは違います。
仮に258兆円を運用して倍の516兆円に増えたとしても、実際の年金支給積み立て額は8%ほどしか増えない。2023年度の収益額45兆円も、年金財政全体からすれば微々たる額にすぎません。
あなたの年金を食い物にする人々
では残りはどうしているかというと、資金を複数の民間金融機関に運用委託(丸投げ)している。ポイントは、積立金を株などで市場運用している、ということです。つまるところ潤うのは国民ではなく、金融機関です。
GPIFと前述した厚生年金基金の違いとして、さすがに金融機関系のGPIFに天下りを送り込むことはできません。しかし年金という公的なお金で金融機関のビジネスを手助けしているという点において、真っ当な組織とは言い難い。
米国では、老齢・遺族・障害保険(OASDI)の積立金はすべて非市場性国債引受であり、市場運用はありません。
私が米プリンストン大学で教鞭を執っていたころ、英語はあまり得意でないので、言語障壁の少ない数学や年金数理を使い、年金などの講義を行なっていました。
ある日、米政府の関係者から「日本の年金積立金運用の話を教えてくれ」という依頼があり、「米国でも日本と同じ運用をしたらどうか」と聞かれました。
私の答えはノーでした。日本が公的年金積立金の市場運用を行なっていたにもかかわらず、ノーといったのは、市場運用ほど国が行なう事業に不適切なものはない、と考えていたからです。
「それなら民間金融機関に丸投げすればいいのでは」といわれたけれども、わざわざ国が国民からお金を強制徴収し、金融機関が国民に代わって財テクを行なう理由がわからない。投資がしたいのならば、個人ですれば済む話です。
政府は一体、誰のために仕事をしているのか?
NISAに関しても同様で、投資信託などの商品は、金融機関に払う手数料の塊といってよい。政府が国債ではなく投資信託へ誘導している時点で、金融機関の私腹を肥やすだけだという歪んだ話に思われます。GPIFやNISAのように金融機関だけが儲かるところへ国民のお金を流すのであれば、たとえば物価連動国債をダイレクトに買ったほうがリスクヘッジも可能で、はるかにまともな政策です。
しかし、米国では国債の個人直販サイトは当然ありますが、日本ではない。
石破政権や財務省は、いったい金融機関と国民のどちらの側を向いて仕事をしているのでしょうか? 高橋洋一(たかはし よういち)プロフィール
株式会社政策工房会長、嘉悦大学教授。1955年、東京都生まれ。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。80年、大蔵省(現・財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、内閣参事官(首相官邸)などを歴任。小泉内閣・第1次安倍内閣ではブレーンとして活躍。2008年に『さらば財務省!』(講談社)で第17回山本七平賞を受賞。