
11年連続で増加している不登校の生徒数。その背景にあるものとは?(出典:Shutterstock)
「学校に行きたくない」子どもから言われた経験のある先生や保護者の方は、少なくないかもしれません。
現実として、不登校の小中学生は年々増加しています。文部科学省が2024年に公表した調査によると、2023年度に不登校となった小中学生の数は34万6482人にのぼり、11年連続で過去最多を更新しました。高校でも6万8770人の生徒が不登校になっており、こちらも過去最多です。
しかし、近年の研究からは「学校に行きたくない」という言葉は、単に不登校のサインにとどまらない可能性が指摘されています。不登校を巡る最新のデータと研究から、子どもたちの「学校に行きたくない」気持ちの背景を考えてみましょう。
「学校に行きたくない」検索数の増加に連動する、自殺者数の増加
インターネットの検索履歴が、子どもの命に関わるサインになる……。その可能性を示したのが、多摩大学による2024年の論文です(※1)。この研究は、2016年から2020年にかけて、日本の小中高校生の自殺者数(警察庁発表)と、Googleトレンドにおける検索キーワードの変動を週単位で分析したものです。そして調査の結果、重大な傾向が明らかになりました。
「学校に行きたくない」というキーワードの検索数が増加した週があると、その後の週で小中高生の自殺者数が優位に増加していたのです。この関連は偶然ではなく、統計的に意味のある「グレンジャー因果性」が認められたと報告されています。特に、全国一斉休校など社会が大きく揺れ動いた新型コロナウイルスのパンデミック期(2020年)には、この連動性が、より顕著に見られたと言います。
この研究から、子どもたちが発する「学校に行きたくない」という言葉や、その気持ちから検索に至る行動は、単なる学校嫌いや甘えではなく、深刻な精神的苦痛の表れだと分かります。ネット検索というプライベートな行動にこそ、大人が気付きにくい子どもの心の危機を知らせる重要なシグナルが見えるのかもしれません。
不登校、過去最多の34万人……子どもたちはなぜ学校へ行けないのか?
では、なぜこれほど多くの子どもたちが学校に行けなくなっているのでしょうか。文部科学省では、不登校の子ども本人、保護者、そして担任の先生という三者の視点から、その要因を探っています(※2)。その結果、特に先生と児童の間で、「不登校のきっかけ」に対する認識に大きなギャップがあることが浮かび上がってきました。
まず、子ども自身が「学校に行きづらい」と感じ始めたきっかけは、以下の通りです。
- からだの不調:68.9%
- 気持ちの落ち込み、いらいら:76.5%
- 朝起きられない、夜眠れない:70.3%
多くの子どもたちは「心と体の不調」を訴えており、その割合は約7割にのぼります。一方で、先生がこれらの不調を把握していた割合は2割弱にとどまっていました。子どもたちが抱える心身の苦しみが、いかに大人に見えにくいかが分かります。
さらに、子どもたちは学校環境や人間関係の「つらさ」もきっかけとして挙げています。「先生と合わなかった」(35.9%)、「学校の決まりごと(制服・給食・行事など)がつらい」(38.6%)といったものも、大きな要因となっているようです。
一方で、先生側が不登校の要因として挙げた主な理由は、次の2点でした。
- 学業の不振:41.2%
- 宿題ができていないなど:40.5%
先生側は、学習面に着目している一方で、子ども自身は心身の不調や学校生活へのストレスを強く感じているというズレが浮き彫りになっています。
子どもと先生の「認識のズレ」をいかに修正していくかも、不登校対策の重要なカギの1つとなるでしょう。
子どものSOSにどう気付き、応えるか? 児童精神科医の視点から
不登校の子どもたちの多くは、「学校に行かなくては」と思っています。学校のことなど忘れてしまえるぐらいなら、そもそも悩まないのです。中学生は9月1日ごろ、小学生は12月初めに自殺が多いという報告があります。中学生の場合、夏休みが終わるタイミングで、学校生活への不安や緊張が高まるためと考えられています。小学生の場合は、夏休み明けから不登校になり、時間が経過するうちに不安や緊張が増し、周りからのプレッシャーが重なり、限界を向かえてしまうのかもしれません。もちろん、理由は一人ひとり異なります。本人のみならず、家庭や学校、とりまく社会の環境などの複雑な要因が影響するため、一概には言えません。しかし、周りの大人は子どもの生活リズムを整え、自己肯定感を支える合理的配慮が必要です。
「行かなければ」と悩んでいる子どもに対し、さらに「行きなさい」と責めてしまえば、子どもにとって耐え難い苦しみになります。時に、それが「生きることをやめるしかない」という選択へとつながってしまうこともあるのです。
文部科学省の調査によると、日本はG7に属する国で唯一、10代の中高生の死亡原因の1位が自殺です。子どもが「学校に行きたくない」と言ったとき、「行きなさい」と言うのではなく、まずはその気持ちを受け止め、寄り添うことです。学校や教育相談所、医療機関と相談し、連携しながら、子どもにとってよりよい環境を考えていく必要があります。
「みんな一緒」の一斉指導は限界か? これからの学校教育
「学校に行きたくない」と感じる子どもがこれほどまでに増えている背景には、これまでの「みんな一緒」を前提とした学校教育の在り方もあるかもしれません。国もこの状況を重く見て、文部科学省は「誰一人取り残されない学び」の保障に向けた不登校対策として『COCOLOプラン』を掲げ、新たな取り組みを進めています。しかし制度以上に大切なのは、いかに子どもたちが発する「SOS」を私たち大人が気付き、寄り添っていけるかです。
まずは、子どもたちの心や体の変化、そして「学校に行きたくない」というメッセージを聞き流さず、しっかりと感じとることから始めていきましょう。子どもたちの未来は、私たち大人のまなざしと対応にかかっていると言っても、過言ではないのです。
■参考文献
※1:Arai, T., Tsubaki, H., Wakano, A., & Shimizu, Y. (2024). Association Between School-Related Google Trends Search Volume and Suicides Among Children and Adolescents in Japan During 2016-2020: Retrospective Observational Study With a Time-Series Analysis. Journal of Medical Internet Research, 26, e51710.
※2:文部科学省. (2024年10月31日). 令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果.