一般的にいえば「そんな短い交際日数で互いのことが分かるのか」となりがちだ。だが、梅宮さんは昨年夏に乳がんの診断を受けたことを公表、現在も闘病中。一方の世継さんもかつて脳梗塞という大病を経験していた。
大病をした者同士だからこそ分かり合える
2人とも後遺症で手がしびれていることもあり、「しびれ仲間」だと笑い飛ばしているらしい。大人であること、大病を経験していることから、2人の価値観や今後の人生についての考えが一致したのだという。大病をした者同士だからこそ、分かりあえる「何か」があったのだろう。人はいつどうなるか分からない。だからこそ今を充実させなければいけない。ある種の諦念と、それを上回る生きる力を、大病をした人たちは身をもって知るのかもしれない。
梅宮さんは前向きに治療に取り組んでいる。その生きる姿が世継さんにも伝わり、病気を克服して仕事をしている世継さんの気持ちが梅宮さんを突き動かしたのではないだろうか。慰めあうだけではなく、ともに手を携えて生きていこうとする姿勢が周りの祝福も呼ぶに違いない。
病院で知り合って結婚した夫婦
互いに病気を抱え、病院で知り合って結婚した夫婦がいる。チハルさん(55歳)は、5年前、内臓のがんをわずらった。かなり進んだ状態だったが、手術は成功、抗がん剤投与のため入院や通院を繰り返していた。その病院で知り合ったのが、やはり内臓のがんにかかっていたユウタさん(52歳)だ。「診察の曜日と時間がほぼ同じだっために、よく顔を見るようになって……。たまたま帰りに病院近くのランチがおいしい喫茶店に寄ったら、あとから彼が入ってきた。混雑していたので相席でいいですよと言ったのがきっかけで話すようになりました」
病院に来ると、ここでランチをとるんですとチハルさんが言ったら、僕もですとユウタさんは笑顔を見せた。
病気が見つかったばかりの彼
「母1人子1人で育ったユウタは、結婚しそびれてしまったそうです。最後は10年近く仕事をしながら自宅で介護をしていた。そして50歳のとき母親を見送って、これからは自分の人生を謳歌(おうか)しようと思った矢先、病気になってしまったと。彼はまだ病気が見つかったばかりで、これから治療方法を決めていくということでした。私は自分の状況も話して、大丈夫、頑張って生きていこうと励ましました」その日は連絡先も交換せず、そのまま別れた。後から連絡先くらい聞いてもよかったなと思ったが、チハルさんは当時まだ、他人のことまで気遣う余裕がなかったと振り返る。
「1カ月後、また病院で会ったので、これも縁だと思いました。ユウタは手術することを決めたけど、怖いと言って。怖いって言えるだけ大丈夫とまた励ましました」
そこから連絡先を交換した。コロナ禍で手術日が延期されたりもしたが、ユウタさんは無事に手術を終えた。
退院したその日にプロポーズ
「彼が退院したその日に会ったら、プロポーズされました。私は離婚歴がありますが、子どもはいないと話してあったので、『これからは2人で仲よく生きていこうよ』と言われて。私ももう両親がいないし、たった1人の妹は遠方にいる。この先、1人で病気と闘いながら生きていくのは不安だったんです。友達はいるけど、それだけで満足できるのか……。でも再婚なんてできると思えなかったし、恋愛すら諦めていた」この人でいいのかという不安がないわけではなかった。ただ彼は「病気で絶望していたときチハルさんが励ましてくれた。これからは僕もあなたを支えたい。病気のつらさを分かっているからこそ、支え合って生きていけると思う」と彼は言った。
「まあ、寿命なんて分からないし、人生、先が見えないから面白い。1人じゃなくて2人になったら、もっと楽しめるかもと結婚を決めました。もちろん、付き合っていくだけでもよかったけど、一気に結婚しちゃってもいいかな、と」
2人での生活が楽しくてたまらない
婚姻届を出してから、2人が同居するまでには多少の時間がかかった。結婚と同居は、彼女の中では別だったのだという。どんなに好きでも、半世紀も違う生活を送ってきたのだから、どちらかがストレスを感じるようであれば同居は避けた方がいいと思っていた。「どちらかの家に1泊したり、週末だけ一緒に過ごしたり。少しずつ生活をともにするようになって、これならやっていけるねと一致して」
ここ数年は完全同居しているが、2人での生活が楽しくてたまらないとチハルさんは言う。彼女の病気は寛解したが、これから先も再発の不安はなくならない。
「でも、再発しても彼と一緒に闘う、そう決めています。彼の方も調子がよくて、2人で旅行もしています。感性や価値観が違うところはあるけど、違いを楽しめるんですよ。それは私たちが大人だから。本音を言うといい年だから細かいことにはこだわらない。相手の人格に敬意を持てればそれでいい。だからケンカ1つありません。ちゃんと言いたいことを言い合って聞き合っているから。とにかく『楽しく暮らす』が第一目標なんです」
穏やかに笑うチハルさん、表情は輝いていた。