資産運用

リバランスの大切さとは?リーマンショック時にGPIFが行った怒涛の資金配分

リバランスとは、「資産の構成割合を基本ポートフォリオに戻す投資行動」のことです。リバランスの原資には新規投資資金や、オーバーウェイトとなっている資産を売却することによって得た資金を使います。リバランスのケーススタディーとして、ここではリーマンショック(2008年9月)が発生した際の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による投資行動を振り返ってみましょう。

執筆者:All About 編集部

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リバランスとは

ポートフォリオの運用を行っていると資産構成割合が時価変動によりずれ、その結果として、想定より低い期待リターンとなったり、逆に想定外に大きなリスクを取っていたりすることがあります。リバランスとは、資産構成割合を基本ポートフォリオに戻す投資行動のことです。リバランスの原資には新規投資資金や、オーバーウェイトとなっている資産を売却することによって得た資金を使います。

リバランスは比率が減った資産の残高を回復したうえで投資を継続する意味では長期投資の実践としての性格があります。基本ポートフォリオの構成割合維持という観点からは、分散投資の実践としての性格を有することから、長期・分散投資にとって欠かせない投資行動と言えます。

リーマンショックと分散投資への痛撃

大掛かりなリバランスのケーススタディーとして、ここではリーマンショック(2008年9月)が発生した際の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による投資行動を振り返ってみます。

当時、GPIFの基本ポートフォリオは、国内債券が約2/3を占めるリスクの抑制されたものとなっており、2007年度末の実際のポートフォリオはほぼその比率を維持していました。

それでもリーマンショックの影響は甚大で、内外の株安と対ユーロでの円高の進行により、国内債券の分散投資効果のみでは補いきれず、2008年度を通して資産全体で9.3兆円の損失が出てしまいました。分散投資も時に機能しないことがあり、長期投資と組み合わせないと十分な成果が得られない、というのは教訓として個人投資家の皆さんもよく肝に銘じておくべきでしょう。

GPIFの怒涛の資金配分

GPIFは当時、自主運用への移行中で、財政融資資金からの預託金が償還される最後の年にあたりました。GPIFはこの資金をリーマンショックにより構成割合が大きく下がった国内株式および外国株式に集中的に配分したのです。

下表のとおり、配分金額は内外株式合計で5.7兆円に達しました。この配分のほとんどは2008年9月~2009年3月の7カ月間で行われたもので、当時としては途方もない怒涛(どとう)の資金配分です。この結果、内外株式は基本ポートフォリオの構成割合に接近し、翌2009年度には内外株価の回復に伴い、9.2兆円の収益があがって前年度の損失をほぼカバーし、資金配分の努力は報われました。

図表:リーマンショックとGPIFの投資行動
出所:GPIFの平成19年・20年・21年度業務概況書より筆者作成

出所:GPIFの平成19年・20年・21年度業務概況書より筆者作成

株式投資に対する信念の必要性

筆者は当時GPIFに転職し、職員が基本ポートフォリオに合わせるため、ルールに即して冷静に資金配分を行っていたのを目の当たりにしていましたが、経営幹部の内心は穏やかではなかったはずで、この大掛かりな投資行動を意思決定できたことに敬意を払うものです。

同じリバランスでも、価格上昇により比率の上がった内外株式を売却して他の資産に振り向けることは、利益確定の側面もあり精神的に楽です。しかし価格が大きく下落して比率の下がった内外株式に資金をつぎ込むことは、底を見通すことの困難さを踏まえ「落ちてくるナイフはつかむな」という投資格言もあることから、投資行動の実施にあたって躊躇(ちゅうちょ)が生まれます。

これを克服するためには、株式投資に対する信念が必要です。

この信念の根拠となる考え方として、筆者の執筆した『株式投資はギャンブルではない?司馬遷とピケティ、2000年の歴史が物語る投資の意義って?』をご覧いただければ幸いです。

個人投資家とリバランス

話を個人投資家に戻すと、まずは自分の基本ポートフォリオを決めておく必要があります。10年以上使うあてのない資金であれば、内外債券・内外株式が1/4ずつのGPIFの基本ポートフォリオをそのまま使えばよいでしょう。

以下の記事でGPIFの基本ポートフォリオについて紹介しています。
買わないでおこうファンドラップ?代わりにおすすめする手堅い運用法

実際のリバランスですが、新規投資資金がまだある段階ではアンダーウェイトの資産の購入に充当することで調整しましょう。一方で、住宅購入などの理由で新規投資資金がなくなった段階では、オーバーウェイトの資産を売却して実行する必要があります。

リバランスは、売買コストやNISAで保有していなければ譲渡益が出て課税コストのかかる投資行動であり、低コストという個人投資家の鉄則に抵触する側面があるため、頻繁にする必要はなく、年1回程度で十分です。

教えてくれたのは……
陣場 隆(じんば たかし)さん


京都大学法学部卒業、ペンシルベニア大学ウォートン校MBA、三井信託銀行入社、国際金融部、国際企画部、融資企画部付、年金企画部、年金資金運用研究センター出向、三井アセット信託銀行公的年金運用部次長、証券営業部次長などを経て2006年末に同社退社。2007年より年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に勤務。調査室副室長、運用部長、調査数理室長を経て2020年定年退職。GPIF勤務の13年間で、運用機関構成の決定や基本ポートフォリオの策定を統括した。GPIFを定年退職後「今を生きる若い人たちに向けて年長者の知恵を伝えたい」という気持ちが強くなってきたため、執筆活動を開始
 
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