新しい組織・キャリア論を探求する、安斎勇樹さんの著書『冒険する組織のつくりかた──「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』では、効果的な会議運営やチームビルディングについて、具体的な方法論が示されています。
今回は本書から一部抜粋し、会議で起こりがちな「目線のズレ」に気づき、それを解消するための「ズレないファシリテーション」の基本3ステップについて紹介します。
<目次>
「ズレないファシリテーション」の基本3ステップ
「集団における目線のズレを解消して、前提をすり合わせる」というファシリテーション本来の目的から逆算すると、ファシリテーターがやるべきことはきわめてシンプルです。そのプロセスは、次の3ステップに整理できます。
①目線のズレに気づく
②目線のズレを可視化する
③目線のズレを合わせる
この3つのステップを確認するために、次のようなケースを考えてみましょう。
ある会議で、若手メンバーのAさんがアイデアを出してくれました。
しかし、そこには少し突飛な要素があったからか、ベテランメンバーのBさんが「視点は新しいけど、ユーザー視点が足りないね」と発言しました。
さらに続けて、中堅メンバーのCさんが「たしかに、ちょっと奇抜すぎるかも……」とのコメントをつけ加えました。
結局、そのアイデアはいったん見送られることになったのですが、Aさんはあまり納得がいっていない表情……。
あなたがこの会議のファシリテーターだったら、この場をどのようにつくるでしょうか?
【ステップ①】目線のズレに「気づく」
話し合うなかで、少しでも「あれ?」「どういうこと?」「なにかおかしいかも……」といった違和感を抱いたら、それが対話のチャンスです。ファシリテーターを何度も経験していると、だんだん話し手のあいだの前提のズレに敏感になっていきますが、最初からそこを目指す必要はありません。
まずは自分のなかに浮かび上がったモヤモヤに意識を向け、ズレの兆候を見逃さないようにしましょう。
ズレが起こりやすいときのサインは次のとおりです。
(1) 両者の立場や役割が明確に異なるとき
(2)言動の意図が語られていないとき
(3)感情的なモヤモヤが生まれているとき
(4)お互いが異なる評価や判断をしているとき
さきほどのケースでも、前提のズレの兆候がいくつか見られます。
最初に発言したBさんがベテランであった点(サイン1)、「ユーザー視点」「奇抜すぎる」という異なる表現のジャッジがあり、それぞれの意図・背景が明確ではない点(サイン2・4)、指摘を受けた若手のAさんが納得しきれてなさそうな点(サイン3)。
4つのサインに目を配り、発言の土台にある価値観や感情、思い込み、バイアスなど、目に見えない当事者の深層心理に関心を持つようにすると、目線のズレに気づけるようになります。
【ステップ②】目線のズレを「可視化する」
ファシリテーターの立場からはズレが見えていても、コミュニケーションの当事者たちはそれに気づいていないことがよくあります。そういうとき、すぐに質問を投げかけてズレを可視化し、当事者やほかのメンバーたちに「あ、ズレているのかも……」と気づかせることもファシリテーターの重要な役目です。
ズレを可視化するときは次の3つを意識しましょう。
(1)素朴な質問
(2)言い換える質問
(3)モヤモヤしている人への質問
(1)の素朴な質問については、批判的・敵対的なニュアンスが入らないように、「本当に知りたい」「純粋に興味がある」といった気持ちが伝わるような表現を心がけます。
たとえば、「Bさんはとくにどのあたりに『視点の新しさ』を感じましたか?」とか「Cさんが『奇抜』だと感じたのも同じ点ですか?」という質問をすると、じつはBさんとCさんの解釈がそもそも異なっていることが見えてくるかもしれません。
(2)の言い換えもまた、相手の前提を確認するうえでは有効です。
「『奇抜すぎる』というのは、『ニッチすぎる』という理解であっていますか?」というように、こちらで別の言葉に置き換えてみるのもいいですし、「『ユーザー視点』を別の言葉にするなら?」と相手に投げかけるのもいいでしょう。
これによって、たとえばCさんは、「多くの人にサービスを届けたい」と考えているだけで、そもそもAさんのアイデアに否定的なわけではないことが見えてきたりします。
(3)は質問の仕方ではなく、質問する対象の話です。
役割や立場、話の流れによって思うように発言できていない人に気を配り、意見を促します。
さきほどの例で言えば「『ユーザー視点が足りない』という指摘について、Aさん的にはどうですか?」とか「みなさんの意見を聞いてみて、Aさんはどんな発見がありましたか?」という具合です。
これに答えてもらうことで、「Bさん・Cさんの指摘にAさんがピンときていない」という事実を可視化できるかもしれません。
【ステップ③】目線のズレを「合わせる」
ズレが可視化されたら、前提のズレを解消する「目線合わせのコミュニケーション」をサポートしていきます。ここでも役に立つのは「問い」です。
みんなが次のステップに向けて考えたくなるような「前向きな問い」を設定することで、すり合わせを行います。
たとえば、「Aさんが出してくれた切り口を捨ててしまうのはもったいなさそうですね。Bさんのご意見も踏まえて具体的なユーザー像を設定しながら、このアイデアをどうブラッシュアップしていけば、もっとマーケットを広くとれるか、考えてみませんか?」という問いかけはどうでしょうか。
ぜひ、この3つのステップをメンバーみんなで共有しつつ、「全員ファシリテーション型の組織」を実現していただければと思います。
安斎 勇樹(あんざい・ゆうき)プロフィール
株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO。1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。組織づくりを得意領域とする経営コンサルティングファーム「MIMIGURI(ミミグリ)」を創業。資生堂、シチズン、京セラ、三菱電機、キッコーマン、竹中工務店、東急などの大企業から、マネーフォワード、SmartHR、ANYCOLORなどのベンチャー企業に至るまで、計350社以上の組織づくりを支援。ウェブメディア「CULTIBASE」編集長。東京大学大学院 情報学環 客員研究員。