新しい組織・キャリア論を探求する安斎勇樹さんの著書『冒険する組織のつくりかた──「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』では、従来の効率重視の組織運営がもたらす弊害と、個性を活かし創造性を高める新しい組織のあり方について提唱しています。
今回は本書から一部抜粋し、なぜ部下を「道具」として見てしまうのか、そして個性を活かし「仲間」としてつながる「冒険する組織」への転換に必要な視点について紹介します。
職場のチーム観をアップデートせよ!
チーム観をアップデートするとき、重要なポイントは2つあります。1つめは、「お互いの個性を活かし合う」ことです。
「デキる営業」をリーダーとした同一職種のチームの場合、未熟な新人メンバーたちがまずやるべきは、「リーダーのやり方を真似すること」です。
それぞれの個性は度外視して、売れるための成功パターンをリーダーからひたすらコピー・吸収することが求められます。
他方、異なる職能が集まった冒険的チームでは、そういうわけにはいきません。
エンジニアとしての美学、デザイナーとして譲れないポイント、各人の感性や優先事項など、メンバーごとのこだわりの違いを理解しつつ、一人では生み出せない価値を探究する必要があるからです。
たとえば、態度の悪いコンビニの店員さんに対して、「ちゃんと仕事をしてほしいな……」と思うことはあっても、「長時間のシフトで疲れているのかな?」とか「昨日、なにかイヤなことでもあったのだろうか?」などと気遣うことはほとんどないでしょう。
他者を「コンビニ店員」として記号的にとらえ、ある種の「道具」として利用しているからこそ、私たちはふだんお店を気軽に利用できているのです。
逆に言えば、店員が「有用な道具」として機能しないと、反応が悪いテレビのリモコンに苛つくように、「ちゃんと動いてほしいな……」とイライラすることすらあるかもしれません。
「お互いが有用だから」共にいるのではない
合理的思考に傾倒した軍事的世界観のチームでは、「道具的な関係性」が蔓延しています。とくに管理者・評価者であるマネジャーにとって、チームのメンバーは割り当てられた目標を達成するための「道具」になりがちです。
冒険的世界観におけるチームとは、一人ひとりのメンバーを単なる“道具”ではなく、個性ある“人間”として認め、「仲間」として互いにつながり合う共同体です。
多様な職能を活かすことは重要ですが、営業も、エンジニアも、デザイナーも、職能に関係なく、一人の人間です。
『ONE PIECE』に登場する「麦わらの一味」が同じ船に乗っているのは、彼らが「仲間同士だから」です。
「自分の目標の達成にとってお互いが有用だから」ではありません。
せっかく同じ職場で働く以上、「同じ船に乗る意味」を一緒に考えてみる──
これが、チームのレンズを「機能別に編成した小隊」から「個性を活かす精神的共同体」へ交換するということです。
チームは「精神的な共同体」である
第2のポイントは、チームを「精神的な共同体」としてとらえることです。軍事的世界観におけるチームは、職種や専門性に応じて機械的に分けられていました。
そういう環境下では、必ずしもメンバー間の精神的なつながりは必要ありません。
「私が営業部にいる理由」は「私が営業職だから」で十分でした。
他方で、職種や専門性、こだわりの異なる個性豊かなメンバーが1つのチームに集うときには、お互いが持っている背景や感情を理解し、精神的につながり合っている必要があります。
「精神的につながり合う」とは、メンバーを「仲間」として見るということです。
私たちは合理化が進む現代社会に生きるなかで、他人を「道具」としてとらえるものの見方を無自覚に習得してしまっています。
ここでは、人材の表層的なスキル面だけでなく、「その人が何者なのか」「どんな背景を持っているのか」「なぜここで働いているのか」なども含めて、相手を全人格的に理解しようとする姿勢が求められます。 安斎 勇樹(あんざい・ゆうき)プロフィール
株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO。1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。組織づくりを得意領域とする経営コンサルティングファーム「MIMIGURI(ミミグリ)」を創業。資生堂、シチズン、京セラ、三菱電機、キッコーマン、竹中工務店、東急などの大企業から、マネーフォワード、SmartHR、ANYCOLORなどのベンチャー企業に至るまで、計350社以上の組織づくりを支援。ウェブメディア「CULTIBASE」編集長。東京大学大学院 情報学環 客員研究員。