亀山早苗の恋愛コラム

月9ドラマ『続・続・最後から二番目の恋』にみる、アラ還世代の「恋愛と第二の人生」

月9ドラマ『続・続・最後から二番目の恋』が話題だ。11年ぶりの続編で、主演の二人はアラ還に。登場人物と同様に、バブル時代を生きたこの世代、まだまだ「第二の人生」に迷っている。(サムネイル画像出典:『続・続・最後から二番目の恋』公式Xより)

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

恋愛ガイド

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この春、テレビではさまざまなドラマが放送されている。中でも評価が高いのが月9の『続・続・最後から二番目の恋』(フジテレビ系)だという。2012年に第一期、2014年に第二期が放送されてから11年という時を経ての第三期目となる。

11年ぶりの続編『続・続・最後から二番目の恋』

古都・鎌倉を舞台にテレビ局プロデューサーである千明(小泉今日子)と、隣人である鎌倉市役所で働く和平(中井貴一)との関係を軸に、周囲の人間関係をコミカルに緻密に描いたドラマだ。キャストがほぼ実年齢で演じてきたために、視聴者も「一緒に年をとってきた」親近感を呼んでいるのだろう。

今回は千明が59歳、和平は63歳、二人ともアラ還である。千明は独身で定年まであと1年となり、妻に先立たれて一人娘を育ててきた和平は定年後の再雇用で仕事をしている。「まだ老人というほど老いてはいないが、第二の人生、セカンドキャリアと言われると、これまでずっと頑張ってきたのにまだ頑張れということなのか」と鬱屈(うっくつ)した思いをそれぞれに抱えている。

千明と和平の関係も、友達以上恋人未満が続いている。アラ還ともなれば、誰かと一緒に歩いていきたいという思いはあるものの、二人とも朝から毎日のように口げんかをしてしまう。ところがこのけんかが楽しいのだ。互いに基本的には敬語を使っているのだが、気持ちいいくらい言いたいことを言い合っている。大人だから嫌みも皮肉もバシバシ飛び交う。

それをいさめたりなだめたりするのが、和平の弟と妹である双子の真平(坂口憲二)と万理子(内田有紀)だ。和平のすぐ下の妹・典子(飯島直子)は専業主婦だが、しょっちゅう「つまんねえ」とつぶやいている。演技巧者の役者がそろうと、これほど個性的な登場人物たちが、ある種のまとまりを持ってドラマを構成しているのが不思議なくらいだ。とりわけ万理子を演じる内田有紀の芝居がすごい。万理子という着ぐるみを着ているとしか思えないほどで、キレ者の麻酔医(テレビ朝日系『ドクターX』)とは似ても似つかない。

気になる恋の行方

アラ還だって恋心は健在。千明は今回、かかりつけ医(三浦友和)が気になっているし、いつも夫を亡くした女性に言い寄られる和平は、市役所のスタッフとなった律子(石田ひかり)と何やらありそう。

脚本は、自身もアラ還世代の岡田惠和のオリジナル。演じ手も脚本家も初期から同じだからなのか、役者が無理なくごく自然に話し、息継ぎまで分かっているようなセリフの応酬が面白い。なにより役者たちが楽しそうに生き生きと演じているのが見ていて分かるドラマも珍しい。

大きなできごとが起こるわけではないのだが、アラ還の千明と和平が、少ししみじみと人生を振り返るところに同世代は心を鷲づかみにされる。

「さみしくない大人なんていない」
「頑張っている自分がちょっとうれしい」

アラ還世代の悲喜こもごも

そう、今のアラ還はバブル世代でもある。仕事を始めてすぐに「24時間戦えますか」と問われ、頑張っていたらあっけなくバブルははじけた世代なのだ。それでも「頑張る自分が好き」が抜けないままに走り続けてきた。

そんな世代が、同期や上司の死に直面して老いを身近に感じ、老害にならないように気をつけようとすること自体がすでに老害と狼狽(ろうばい)し……。どうふるまったらいいのか分からないままに、「アップデートなんてするもんか」と拗ねてみたり、何が正しいのかと悩んでみたり。

四十にして惑わずなどというのはうそなのだ。生きている限り、人は悩み苦しみ、些細なことで幸せを感じる。大人だからこそ、理性と感情のバランスをとろうとして滑ってしまうこともある。そんな大人の「あるある」がちりばめられているのが魅力でもある。

この先、どうなるのか分からない

アラ還だからといって、経済的にも環境的にも精神的にも安定した人生が手に入っているとは限らない。ある程度、経済的に満たされていたとしても、大病をしたり家族に何かがあったりしたらあっけなく「下流老人」になる危険性はある。

「うちは夫が50代半ばで亡くなって、昨年、定年を迎えた私は再雇用で今も働いています。二人の子どもたちはもう成人しているけど、非正規で働いていた20代半ばの次男がとうとう仕事をやめてしまって、ちょっと引きこもり気味……。共働きだから経済的には楽でしょと昔から言われましたが教育費もかかったし、夫の両親の面倒も見ていたので貯金もそれほどない。生きていてもいいことないなというのが正直なところですね」

ジュンコさん(61歳)はそう言う。とはいえ、日々に希望が持てなければ絶望の淵を歩き続けるしかない。だから彼女は仕事を続けている。再雇用で収入は大幅ダウンしたが、定年前より忙しい。後輩たちから仕事を押しつけられても、彼女は笑顔でこなしていくのだという。

こんなはずじゃなかったと思いつつも

「定年前より仕事が忙しいかも。でも頼られているうちが花だと思っています。私も最近よく人生を振り返りますよ。こんなはずじゃなかったと思うこともたくさんある。でももしかしたら、まだ恋をする可能性もないわけじゃないし、これから何か楽しいことに出会うかもしれない。生きていてもいいことないと思いつつも、日々、小さな喜びを意識的に見つけようとしている気がします」

ただ、この先どうなるのかはまったくの不透明。不安も大きい。病気をしたらどうしよう、年金だけで暮らしていけそうにない、とか。遠方に住んでいる長男に迷惑はかけたくないし、この先、次男がずっと働こうとしなかったら困るなと思い悩むことも多い。それでも人は生きていくしかない。そんなことが腑に落ちるようになるのがアラ還世代なのかもしれない。

「思っていること、考えていることをさらけ出せる関係があればいいなと思うことがあります。アラ還になると、つい相手の気持ちも考えてしまって、なかなか本音をぶつけることができない」

生きていくのは、ただそれだけで大変なのだ。

 
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