高齢ドライバーによる事故やヒヤリとする場面は、もはや他人事ではない。「まだ大丈夫」という本人の自信は家族では止められないことも。そんな現実が浮き彫りになってきた。
「『ブレーキはどれだったっけ?』と言いながら運転」
寄せられたエピソードの中には家族が直面したリアルな恐怖が詰まっていた。「夜間、父が目が見えづらい様子で、思いがけない場所で右折しようとしました。慌てて注意したところ、急ブレーキをかけて元の道に戻ろうとしましたが、後方から直進車が来ており、危うく追突されそうになりました」(40代・男性)
「父が、後方から直進してくる自転車に気づかないまま左折しようとし、もう少しで巻き込みそうになったので、本当にひやっとしました」(60代・男性)
「父がシートベルトをつけないまま数キロ運転していたことに気づきました。普段は人に厳しい父だからこそ、まずは自分自身がきちんとしてほしいと感じました」(40代・男性)
しかしそのような危険運転があっても、運転者自身が「事故になりかけた」ことを認めないケースも散見された。
「後期高齢者に差しかかった母が、赤信号で右折しようとしたので、『止まれ!なにしてるんだ!』と大声で制止しました。母は驚いて急ブレーキをかけ、横断歩道上で車が止まりました。しかし、母は『ちょっと見落としただけじゃない』と反省の様子を見せませんでした」(30代・男性)
「『右に寄っている』と伝えても、左に戻ることなく、さらに右に寄っていく父。『これまでずっと運転してきたから大丈夫』と助言を無視され、隣の車線に車がいなかったからよかったものの、非常にひやっとしました」(40代・男性)
「義理の父が転倒して頭を打った後、母によると軽度の認知症のような症状が見られるようになったそうです。病院を受診するよう勧めましたが、本人は『大丈夫』と拒み、行ってくれません。年末に帰省した際、『ブレーキはどれだったっけ?』と言いながら運転しており、とても驚きました」(40代・女性)
「義理の父は非常に危ない運転をしています。最近では、携帯電話も持たずに1人で出かけ、行方がわからなくなり警察署に駆け込んだということがありました。妹が甥とともに迎えに行きましたが、本人はその後もまったく話を聞こうとしません」(40代・女性)
「耳を貸そうとしない」免許返納ができない理由
また家族が免許の返納を望んでいるのに、「話を聞いてくれない」「反論すると怒るので強く言えない」といった葛藤を抱えているという人も少なくなかった。「『免許を返納したら?』と伝えると明らかに不機嫌になり、会話がそれ以上進みません。取り合ってもらえず、つらいです」(20代・男性)
「免許返納について話したところ、『車がないと買い物に行けない』と頑なに耳を貸そうとしませんでした」(40代・女性)
警察庁は、高齢ドライバーに対して講習制度や免許返納の仕組みを整備している。しかし、制度がどれだけ整っていても、基本的には「本人の意思」がなければ返納は実現しない。また、地方では「免許を返納すると移動手段が絶たれる」という深刻な課題も抱えており、家族としては命を守りたい一方で、生活が立ち行かなくなるリスクも無視できない。
身内の運転に不安を覚えた際には、ただちに免許返納を求めるのではなく、「いかにして事故を防ぐか」を共に考える姿勢が重要ではないだろうか。定期的な運転技能のチェックを促す、交通量の多い道を避けるなどルートを見直すといった工夫もできる。「制度」と「生活」の間に橋をかけるような支援の在り方を、家族内で模索していく必要があるのかもしれない。
<参考>
内閣府「高齢運転者による交通事故防止のための取組」
<調査概要>
調査方法:インターネットアンケート
調査期間:2025年3月12日~2025年3月26日
調査対象:121人(男性:48、女性:73)
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