Yahoo!ファイナンスの「株主優待人気ランキング」の中から、日本株に詳しい金融文筆家の田代昌之さんに「特に注目したほうがいい」という銘柄を厳選・紹介いただくシリーズ、今回は4月権利確定銘柄を3つ、取り上げます。
1:くら寿司<2695>
最初に紹介するのは、寿司チェーン店を運営するくら寿司<2695>です。同社のコンセプトは「安心・美味しい・安い」。創業当時から化学調味料や合成着色料などの添加物を一切使用しておらず、昔ながらの味でチェーン展開を図っています。同社は2024年12月に「株主優待廃止」を発表しましたが、2025年2月に「優待復活」となり、株価が動いている状況です。
「昨年12月、2025年4月からの株主優待制度廃止を発表したことから株価は急落しました。株主優待を廃止する理由について、くら寿司は『配当を含めた株主の皆様への公平な利益還元のあり方という観点から、慎重に協議した結果、株主優待制度を廃止することといたしました』とのことでしたが、廃止発表前は3,900円水準だった株価が今年2月には2,500円台まで下落。実に3カ月で4割ほど株価が下がったのです。おそらくは株価の急落を理由に、同社は今年2月、4月末からの株主優待制度を再開しました」(田代さん)
再開したくら寿司の株主優待制度については、「100株保有で食事券2,500円分贈呈という内容です。廃止前は1,000円の飲食利用で500円割引券1枚が利用できましたが、今回の4月末からは額面通り使える食事券なので、廃止前よりも拡充した内容と言えます」とのこと。
株主優待制度が再開されることで、同社の株価は上がっていますが、下落前の株価には届いていません。これについて田代さんは「確かに株価はまだ下落分の半値ほどしか戻っていませんが、権利取りは4月末なため、これから個人投資家の買いが入る可能性があります。現時点で株価が戻っていないことには、さほど心配は要らないと考えます。いずれにせよ、同社の一件で、株主優待狙いの個人投資家のパワーと株主優待制度の重要性を痛感しました」と述べていました。
そんなくら寿司の業績について、田代さんは「訪日客の増加が奏功して国内事業の客単価は堅調に推移しており、大阪・関西万博では同社史上最大の店舗を出店する予定ですので話題性は非常にあります。今期計画の営業利益、経常利益は前年比減益を見込んでいますが、同社はこれまでも保守的な通期計画を出す傾向にありますので、不安材料にはならないと考えます」と分析しています。
2:伊藤園<2593>
次に紹介するのは、「お~いお茶」などの飲料を提供する伊藤園<2593>です。お茶専門店から始まったため、茶葉やティーバッグ、茶系飲料で有名ですが、野菜ジュースやコーヒーなどの清涼飲料水も扱っています。また和食や抹茶の世界的ブームを受けて海外展開を進める一方で、米シアトルで生まれた「タリーズコーヒージャパン」を傘下におさめるなど国内でも事業の多角化を進めています。こちらの企業についても、田代さんは「根強い株主優待ファンがいる企業」としています。そんな伊藤園の業績について、田代さんは「少々厳しい」としており、「今期第3四半期累計営業利益は178億円で前年同期比18.2%減となり、上半期実績の同15.6%減から減益幅は拡大しました。通期営業利益計画に対する進捗率も7割弱ですので、もしかすると通期業績の下方修正があるかもしれません。値上げの影響によって、大型容器を中心に消費鈍化が強まっているようです」と説明しています。
それでも同社を注目銘柄として紹介したい理由について、田代さんは「東証に上場する企業の中で、唯一『優先株』を上場させているから」とのこと(伊藤園 第1種優先株式<25935>)。
優先株(第1種優先株式)とは、「議決権がない(原則)一方、1株につき、普通株式への1株当たり配当金の125%をもらえる権利がついています。そして、普通株主に対して金銭配当を行わないときは、1株につき15円の配当金がもらえる株のことです。株主総会における議決権はないけれども、その分、配当金を高めますよ、というのが同社の優先株です。普通株式同様の株主優待制度があります」と田代さんは説明します。
同社の優待は同社の製品詰め合わせで、普通株でも、優先株でも100株以上保有していれば 1,500円相当の飲料品が受け取れます。All Aboutの読者には伊藤園の優先株を買っている方がおり、優待品を受け取ったときの感想として「ドリンクセットがいただけます。普段買わない伊藤園のコーヒーなんかも入っていて珍しいです」(男性・56歳・岐阜県)とおっしゃっていました。
では、普通株と優先株、どちらを買えばよいのでしょうか。田代さんは「優先株を発行する企業側のメリットは、議決権がないので経営に介入される心配がない点です。そして、投資家のメリットは、株主総会への出席や経営方針への口出しができない分、高い配当金をもらえる点です。一方、優先株のデメリットとして、議決権がないため機関投資家が購入しないほか、東証株価指数(TOPIX)に組み入れられていないためにTOPIXのETF(上場投資信託)の買いなどが入らないことで、普通株式よりも株価が低い点でしょう。『株価の上昇を優先とするのか?』『それとも安定した配当金や株主優待制度を優先とするのか?』と、何を第一優先とするかで、保有する株の種類は変わります。『優待や配当もいいけど、株価の上昇を期待したい』というお考えであれば普通株式、『株価の上昇はあまり期待せずに優待や配当を楽しみたい』というお考えであれば優先株はいかがでしょうか」と教えてくださいました。
3:テンポスホールディングス<2751>
最後に紹介するのは、厨房機器販売で国内トップを誇るテンポスホールディングス<2751>です。新品・中古の厨房機器販売を主力に、集客支援や物件紹介など、飲食店経営をサポートする事業も展開しています。傘下には「ステーキのあさくま」があります。同社の優待は、「ステーキのあさくま」など自社グループと支援先の飲食店とで使える食事券で、100株以上保有していれば、年1回8,000円の優待食事券が受け取れます。食事券はあさくまの通販サイト「あさくまファーム」でも利用できます。
利用できる飲食店は全国950店舗ほどあり、「全国各地の株主のために、こうした制度を採り入れたようです。中古厨房機器の販売による飲食店とのパイプを持ち、飲食店の集客支援事業を行う同社ならではの株主優待制度と言えます」と田代さんは評しています。
実際にAll Aboutの読者からは同社の優待制度を利用した感想として「コロナで飲食関連株が軒並み安いときに、少ないながら配当もあったので買いました。何かしらの記念日に、ちょっとリッチな気分でステーキを。提携店での小口の使用も可能とのことであったため、使える店も多く良い選択であった」(男性・61歳・愛知県)、「テンポスバスターズの食券は、近くにあって利用しやすい」(男性・77歳・埼玉県)といった声が寄せられています。
そのほか2024年からは同社が「株主優待制度の拡充」として、年1回8,000円の優待食事券が受け取れる以外に実施している制度が、田代さんは「非常にユニーク」としています。
「同社では中間期の10月末時点に、優待食事券の抽選制度を設けています。1万円相当、2万円相当、3万円相当の優待食事券をそれぞれ100人(合計300人)に贈呈するというものです(当選しなくても、500円分の優待食事券が受け取れます)。同社のHPを確認しますと、株主数は3万6,000人いますので120分の1の確率です。確率はそこまで低くないと思いますので、抽選式の株主優待制度を楽しむ投資家の方は一定数いらっしゃるでしょう。抽選式の株主優待制度を設定している企業は同社のほかにもありますので、運試しをされたい方はチェックしてみてはいかがでしょうか?」(田代さん)
そんなテンポスホールディングスの今期第3四半期業績について、田代さんは「主力事業の中古厨房機器販売について、店舗販売の『テンポスバスターズ』がM&Aなどもしながら72店舗から5年で120店舗体制にするといった成長戦略をとっていることから販管費が増加。中古厨房機器販売事業の営業利益は前年同期比9.5%減少したことで、全体の営業利益は前年同期比0.6%増の小幅増益に留まっています。しかし、同社は今後もこの成長戦略を続けるとしています。通期見通しに到達しない可能性はありますが、『成長戦略の達成のための種まきのタイミング』だとすれば、来期、再来期での業績拡大への楽しみは残るでしょう」と教えてくださいました。 コメント:田代昌之(金融文筆家)
新光証券(現みずほ証券)やシティバンクなどを経て金融情報会社に入社。アナリスト業務やコンプライアンス業務、グループの暗号資産交換業者や証券会社の取締役に従事し、2024年よりフリー。ラジオNIKKEIでパーソナリティを務めている。
※株主優待に関する情報は、記事執筆時点のものになります。詳細につきましては、各社が発表している株主優待内容をご確認ください。
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